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二月に入ると、街は一気に可愛らしい恋の色に染まっていく。お店にはハートの飾りが目立つようになり、ピンクや赤色の箱やリボンが売られるようになり、「バレンタインフェア」の文字が目に止まる。
「ハァ……」
あと二週間ほどでやってくるバレンタインのことを考えると、私、豊岡美羽の口からため息が漏れる。すると、私の前に座っていた異性の幼なじみ、細田伊織が「おい」と低い声を出す。
「人がせっかく貴重な時間を使って、「講義の内容がわかんない」って泣きついてきたお前に勉強教えてんだけど。ため息を吐くってどういうこと?」
「だって〜、今年もバレンタインが来ちゃうんだよ!?今年もバレンタインに作るのは、友達に渡すのと、家族に渡すのと、伊織に渡すやつだけなんだよ!?あと私、伊織に「教えて」とは言ったけど、泣きついてはないもん!!」
私がそう言うと、伊織は「だから何なんだよ」と言いたげな目を向ける。私は「わかってないなぁ」と言い、伊織を睨んだ。
「彼氏も好きな人もいないから、本命チョコを作れないんだよ!!」
「だから何なんだよ。勉強に集中しろ、馬鹿」
呆れた、と伊織は大きなため息を吐き、かけている眼鏡をクイと上げる。その仕草だけで、大学の食堂にいた女の子たちの視線が集まるのがわかった。
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