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血こそが鉛筆、壁こそがノート
狭くて暗い部屋。床や壁には所々血が付着している。
部屋の真ん中にベッドがあり、黒い髪の十代前半の少年が横になっている。彼は痩せ細っていた。枕元にはノートと鉛筆がおいてある。
「ああああうっ! ああああうっ! ああああうっ!」,
少年はガバッと上体を起こす。喉から突然、声が出て何回も短くけいれんした。体がガクガク震える度に口から血を吐く。
ぎぃぃぃ。部屋のドアが空いた。
バタン。
老人がベッドの前で両膝をつき、謝る。
「おおお孫よ、申し訳ない。お前をこの小屋に閉じ込めて置くことを許してくれ。人前に出たら最後、劣悪な環境の施設に閉じ込められるに決まってるのだから」
落ち着きを取り戻した少年が言った。
「お祖父様、せめて新しいノートと鉛筆を下さい。暇つぶしにノートに日記や文章を書いているんです」
老人はかぶりを振った。
「我が家は困窮していてな。お前に物を買ってやる余裕はない」
「そうですか……」
老人は立ち上がって小屋を出た。勿論、鍵をかけて。
少しして少年はベッドから起き上がって、小屋の壁の小さな穴から外を見る。辺りは夜の闇に包まれていて、正面の奥に大きな家がある。明かりがついていて、大きな笑い声が聞こえる。
「あんな奴は孫ではないわ! 少しでも血が繋がっている事が恥ずかしいわい! ハハハハ!」
毎日、自分を馬鹿にする笑い声を聞かされていた。彼の祖父は気付かれてないと思っている。
ある朝、老人は目を覚まして家の玄関を出た。小屋にいる孫の様子を見に行くためだ。ちらっと横を見ると家の外壁の前で少年が口から血を垂らしている。その指は真っ赤だ。
「なにをしておる! どうやって小屋から出た!」
孫から小屋へ視線を移動させる。
小屋の壁に穴がある。
少年は小さな穴を道具を使って大きくし、そこから外へ出た。
老人は少年へ近づき、顔を殴り、壁を見た。
血文字で『人でなし』と書いてあった。
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