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幸せ
青い空。
一面に緑が広がっている。ここは草原だ。
真ん中に真っ白な肌の三十代半ばの女が倒れている。近くで三人のやせ細った赤ちゃんが寝ていて、その側にバッグが置いてある。
一人の二十代半ばの女と二十代前半の男が草原にやって来て、赤ちゃんたちの前で立ち止まる。
二十代前半の男──川島平良が言った。
「通報によると、数日前からこうなっていたそうです」
女と男はとある公的機関の職員で、市民からの通報を受けてやってきた。
二十代半ばの女──小野裕子が倒れている女に近づいて揺さぶり、声をかける。
「大丈夫ですか? 救急車を呼びましょうか?」
……。
返事がないので、さらに強く揺さぶると倒れている女の服の胸元がはだけて胸の辺りや首にいくつもあざがあるのが見えた。
しばらく考えてから裕子は立ち上がり、ポケットから端末を取り出して画面を操作した。
画面を見ながら裕子は隣にいる平良に言った。
「この女の人、行方不明者みたい。両親から届出がある」
「じゃあ、この赤ちゃんたちはなんですか? 行方不明になっている間に子供が出来たんですか?」
「今からその手がかりがないか調べるところ」
裕子は置いてあったバッグを拾って中を探る。
(それ、僕たちがやることなんですかね……)
平良はそう思ったが、口に出さないでいる。
裕子はバッグの中からスマホを見つけて取り出す。いじっていると『遺書』と書いてあるデータが入っていた。
裕子は読みだした。
『結婚したのは失敗でした。付き合い始めの頃はあの人は優しく良い人で、私達は互いを愛し合い肌を重ねて三人の子供を授かり、出産しました。その後結婚したのですがすぐに乱暴な人になり、私と子供達を家に監禁し暴力を振るい出したのです。食べるものも飲み物も与えられませんでした。自分も赤ちゃん達も衰弱しきっていましたし、いずれは夫に殺されることは明白でした。私は子供達に外を見せてやりたいと思い、なんとか家を抜け出してこの場所へ来ました。このスマホは夫のものです。家に置いてあったのを持ち出しました。普段は肌身離さず持ち歩くのですが酔っぱらって忘れてしまったのでしょう。私達はもう助かりません。ごめんね、こんなお母さんで。次があったら幸せになれる環境で産んであげるから
裕子は言った。
「この子たちを保護して施設へ預けるのを一旦、やめましょう。この世を去るまでの間くらいは、外を見ていて欲しいから」
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