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13 ガラス張りの喫煙ルーム。安っぽい空気清浄機が煩い音を立てている。 それなりの企業なのに喫煙所が快適にならないのはいずれこのビル内も禁煙にされるからだろうと文也も宝井も諦めていた。 愛煙家より嫌煙家の人口が勝る時代だ、仕方ない。 「今日はどうだった?」 「いや、資料通りですよ。凄く優秀。」 「女子社員がずっと騒いでるだけあるよな、あの二人。」 「騒いでるって、なんですか?」 タバコを取り出し、二人は口に咥える。 文也が先にライターを差し出して宝井のタバコに火をつけた。 「フゥ〜…サンキュ。あれだよホラ、顔よし、中身よし、彼女なし!最高物件だとよ」 宝井は吸い込んだ紫煙を吐き出しながらカウンターになったテーブルに肘をつきのけぞった。 「あぁ…なるほど。」 「おまえ、榎木には随分懐かれてるよな…歓迎会でも文也にベッタリだったし。」 「ベッタリって…変な言い方しないでくださいよ」 「変かぁ?」 宝井は天井を仰ぎ見ながら大袈裟ではないだろうと思った。 「ぁ…いや、そんな事どうだっていいです」 文也は変に意識し過ぎて宝井の言葉に過剰に反応しがちだった。 まさか歓迎会でしっかり二度目の告白を受けたなんて言えるはずがない。 スパスパとタバコを吸う文也の姿に、宝井は首を傾げた。 「大丈夫か?最近ちょっと変だぞ?疲れてんのかな?」 「そりゃ!疲れますよ!右も左も分からない子達を育てるんですから」 「ハハッ!まぁ、そういうな!優秀で助かったじゃねぇかよ」 宝井が違うか?と付け加える。 「そ、そうですけど」 「けど…なんだよ。らしくねぇな。営業一課の教育担当には期待してんだぜ」 文也は横目でじっとり宝井を睨みつけた。 宝井はこの強引な性格のせいで案外と外に味方と同じくらいの敵を持っている。 営業課は三課まであり、一課は取り分け優秀な人材が置かれていて、二課と三課からのやっかみはないとは言い切れなかった。 しかし、優秀な人材を置いた一課の長だけあって、宝井はかなりのやり手だ。 文也はそんな宝井を尊敬していたし、否定する事も出来なかったので肩を竦めてやり過ごした。
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