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15 肌寒い気がする。 いや、間違いなく寒い。 文也は肩がスースーする感覚に身を捩った。 何か熱を放つような物に腕が当たり、それを引き寄せるように掴んだ。 温かくて、ツルツルした感触が気持ち良く頰をすり寄せる。 「ゔぅ…寒…」 抱き枕のように腕を回した物体が、逆に文也を抱き込むように動いた。 「…ん…」 「おはようございます」 「んぅ〜…おはよぉ〜………おはよう?…えっ…おっ…せっ!おっ!おっ!おはっ?!せっ関くんっ!!」 凄い勢いで上半身を起こす文也。柔らかなベッドがギシッと軋んだ。 「アハ、落ち着いてくださいよ、高橋さん。まだ少し早いです。…起きますか?」 文也はスースーする肩を見下ろす。 どうやら服を着ていないから冷えている様だ。若い頃は良く裸で寝たもんだが、おいそれとそんな事が出来る年はとうに過ぎていた。 「せ、関くん…」 知らない女が横たわっている方がまだマシだと言わんばかりの絶望した顔を関に向ける文也。 「覚えてないんですか?…」 B級映画の陳腐なセリフのような言葉を投げつけられて、人生が終わったような気分を味わう。 「何で…何で僕は…半裸なんだろう…とか…何でせ、関くんの家に居るんだとか…お伺いしたい事が…」 「…」 関はキラキラ光る銀髪をかきあげる。 それだけで何かのCMかのような美しさだ。 割れた腹筋にかかった白いシーツが若い身体を輝かせていた。 「関くん?」 「……すみません。揶揄いすぎましたね。昨日、高橋さん潰れちゃって。うちが近かったんでそのまま。あ、服はネクタイが苦しいって言うから解いたんです。そしたら、今度は襟が痛くて辛かったみたいで」 文也は関の言葉にうんうんと頷きながら脱力した。 「僕なんか床に放り出してくれたら良かったのに…」 ヘナッと首を突き出すように溜息を吐く。 「高橋さんが離してくれなかったし…上司を床で寝かせるわけにはいきませんよ」 文也は顔面が燃えてしまいそうに恥ずかしかった。 離さなかったのは誰かなんて正直聞きたくなかった。いや、意識があったわけじゃないんだ!俗に言うノーカンだろっ!何かあったわけじゃないっ!そうだ!ただ部下と飲みに行き、酔い潰れ、その部下の家のベッドで半裸になり抱き合いながら一夜を越しただけ………ノーカン…なのか?…言ってて涙が出そうだ。 文也は両手でバチンと顔を押さえて蹲った。 「関くんっ!申し訳ないっ!!本当、僕はなんてお詫びすればいいんだ」 「高橋さん、そんなに落ち込まないでくださいよ…俺が傷付く」 「きっ…傷…ご、ごめん…」 文也は戸惑いながら肩を落とす。 「俺、高橋さんと飲めて、高橋さんと一晩寝れて嬉しかったっスよ」 「ねっ!寝れてとか言うなよぉ〜」 「ハハ…コーヒー淹れますね」 「…ぁあ〜…僕一回家に帰るよ…スーツ同じのだと落ち着かないし」 関は半裸の文也を眺めて呟いた。 「高橋さん、運動してます?腹筋綺麗…全然肉付いてないっすね」 「え?…あぁ…筋トレをたまにするくらいだよ。元々筋肉つきにくい体質みたいでね。これだけは治せないコンプレックスだよ」 文也はベッドから立ち上がりハンガーに掛けてあったスーツに袖を通した。 関はベッドに腰掛けたままそんな文也の後姿を見上げている。 クルっと振り返り文也はサイドテーブルに置かれた自分の眼鏡をかけた。 「関くん、本当、迷惑かけてごめんね。この埋め合わせは必ず!じゃ、会社で。」 チャッと手をあげて、関のマンションを飛び出した。 暫く禁酒だ!! もう絶対飲まないっ!! 飲まないぞっ!! 文也はセットされていないブラウンの髪をわしゃわしゃとかきむしった。 文也が出て行った部屋で、関は手を組み顎を乗せる。 ニッと綺麗な顔に満面の笑みを貼り付けて遠くを見据える様に呟いた。 「高橋さん…可愛い人だなぁ…貴方の首筋…榎木は気付きますかね」 鼻歌を歌いながら、コーヒーを淹れる。 良い香りが部屋を満たして、関は満足そうにまた微笑んだ。
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