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16 文也はまださほど人気のない道でタクシーを拾った。 時間は早朝7時になろうというあたり。 一度帰って熱いシャワーを浴びるべきだ。 猛省しても足りない失態に情けない溜息が落ちる。 タクシーの運転手はバックミラーで文也を確認してから話しかけてきた。 「お客さぁ〜ん、残業ですかぁ?随分とお疲れで」 「いや、はぁ…まぁ…そんなところです」 まさか、この期に及んで正直にあった事を話すはずもない。 「ブラックですねぇ〜、今日日、朝になるまで働かすなんて、労基が黙ってないでしょ〜…」 うんたらかんたら…。 得意気に到着するまでタクシーの運転手はご機嫌に喋り続けた。朝から随分と元気な人だ。 「ありがとうございます」 散々自慢話にも近い与太話を聞かされたのに、文也は支払いを済ませながら運転手に礼をいい、マンションに入った。 着ていたスーツをバサバサ乱暴に洗濯機に放り込む。 そのまま風呂に入り、身体が赤くなる程熱いシャワーを浴びた。 関は優秀な期待の新人だ。 自分とつまらない事で気不味くなったりして良いわけがないし、会社が嫌になられては困る。 朝の態度からすれば、彼はそれほど気にしていなかったように思う。 だとすれば、セーフ。セーフだが…普通こんなおじさんと同じベッドで寝ようと思うだろうか…。 文也は立ったまま頭から浴びるシャワーが、髪を伝って足元に滴るのを睨みつけながら頷いた。 「考えても仕方ないな!もう、これはセーフだと認識するより他ないっ!よしっ!」 訳のわからない言い訳と呪文をかけて新しいスーツに着替えた。 そして、いつもと変わらない時間にバス停に向かい、会社へ向かった。
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