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18 ツカツカと長い足は歩みを速める。 開いたエレベーターに、静かな怒りを押し込めるように乗り込む藍。 関は危ない。 藍は本能的にそう感じていた。 三階の営業課があるフロアでエレベーターを降りてなお、足を早めた。 デスクに向かって一直線。藍の席の隣にはすでに関が出勤して、リュックから書類やパソコンを取り出している最中だった。 その関の肩をガシッと掴む。 「ちょっといいか」 藍の睨みの効いた呼びかけに関は顔色一つ変えないまま「あぁ」と返事した。 その一部始終を眺めていたのは宝井だ。 タイプの違う二人は小競り合いはないと踏んでいただけに、心中穏やかではない。 歯車さえ噛み合えばあの二人ならすぐに営業トップ間違いなしなのだ。どうにか上手くやってもらいたいと頬杖をついて溜息にも近い様子でフンと鼻を鳴らした。 休憩室 「朝から何だよ」 「何だと思ってる?」 関の質問を質問で返し睨みつけた藍。 「さぁ…心当たりがねぇな」 「同期だし、関には言っておく」 藍はまっすぐ関を見つめた。 「俺は高橋さんが好きだ。」 関はニヤッと笑うと「俺も好きだよ」と言った。 藍の真っ直ぐな向き合い方がどうにも面白くてならなかったから揶揄うつもりだったのだ。 「俺もって…それってどういう意味で言ってんだよ」 藍は前のめりになりながら関に問いかける。 必死、という言葉がピッタリな藍のその様子に関は更に追い討ちをかけた。 「昨日、ちょっと飲みに行ったら.また潰れちゃったんだよ。だから…家に泊めて一緒にベッドで寝るくらいには好きって事かな」 「おまえっ!」 関のスーツの襟に掴みかかる藍。 「殴るのか?」 「っ…くそっ!」 藍は襟にかけた手を乱暴に離した。 問題を起こせば、直属上司の文也に迷惑がかかる上、自分の首も危ないと考えたからだ。 どんな関係であれ、文也の側に居たい。藍はその一心で関への怒りを鎮めた。 「…可愛い寝顔だったよ。あの人、年齢誤魔化してないよな?」 「…同意があったのか」 「は?」 「キスマークだよっ!おまえだろっ!首の後ろ辺りに付いてた…アレ…同意なのか」 床を睨みつける藍を眺めながら、関は肩を竦めた。 「…おまえさ…そんなガチなの?」 「?…何がだよ」 「高橋さんの事…マジなの?」 関の問いかけに藍は素直に頷いた。 「7年以上…片想いだよ…」 その答えに関は片眉を吊り上げ顔を歪めた。 「拗らせにも程があんだろ」 「るせ…」 関は軽く握った拳を唇に当てながら「ふぅん…」と呟いた。それから、藍の肩をポンと叩き話した。 「…同意じゃねぇよ」 床に落とされていた視線がガバッと起き上がる。 「同意じゃない上に高橋さん、鈍いから気づいてねぇよ。俺が悪戯で付けた事なんてな」 「悪戯?」 「榎木さぁ、もうちょっとオブラートに包むって事、覚えた方がいいぜ。」 「どういう意味だよっ!」 「大型犬みたいに尻尾ブンブン振って鼻の下伸ばして嬉しそうに高橋さん見つめてりゃ、悪いが俺じゃなくてもその内みんな気付くぞ」 藍はグッと言葉に詰まる。 高三の秋に振られたきり、文也を想い続けて来たが会えたのはこの会社に入社してからだ。 抑えようにも感情が暴走していたのは否めない。 「…そのままじゃ、高橋さんに迷惑かかるぞ」 「それはっ!…それは困る」 「なぁんか、そこまで本気だと興醒めすんな」 「え?」 「だから、今回は引いてやるっつってんの。俺、男もイケるからちょっと落としたいと思ってたけど…まぁ、頑張れよ。同期のよしみで応援してやらなくもない」 「ほっ!本当にっ!?」 関の両肩をガシッと掴んで身体を揺さぶる藍。 「あ、あぁ…おまえ目が怖いよ」 「ご、ごめん…協力してくれるのは凄く嬉しいんだけど…」 「何だよ」 藍は肩から手を離して関の唇をそっと撫でた。 「ちょっ!やめろよっ!」 「ぁ…ごめん…でもその唇で、付けたんだろ?キスマーク…あんな白い首に…」 藍は顔を赤くしながら手で顔を覆った。 「マジかよ……つきあってらんね」 関は呆れて天を仰いだ。
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