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20 「おはよう御座います」 「おーっす。おせぇぞ」 宝井が文也に声をかけデスクに手招きした。 文也は自分のデスクに鞄を置くと、宝井のもとへ向かう。その後ろ姿を見つめながら関が呟いた。 「あれ?絆創膏?榎木が貼ったのか?」 藍は「はぁ…」と短いため息を吐き、顔面を手で覆いながら呟いた。 「いや女性社員さん。喫煙仲間の…虫に噛まれてますよって…キスマークに見えるから貼ってあげますって言われたらしい。」 「ブッ!!」 関は吹き出してしまった笑いを両手で押さえた。 「本人すっかり虫刺されだと思ってるよ」 藍の言葉にクククッと身体を小刻みに震わせながらデスクに顔面から突っ伏す関。 「うぉ〜いっ!クールビューティー関っ!何がそんなおもしれぇんだ?」 宝井が文也の背後で騒がしい新人二人に声を投げた。 もうすっかり涙目の関と、呆れるように脱力した藍が宝井に「何でもありませんっ」と声を揃えて返事を返した。 勿論文也は全く何も分かっていない。 藍はこの分では、本気でがっつり攻め込まないと相手にされないのではと不安が募っていた。 「今日は初日同様に商品説明の勉強会と昼飯は一緒に外で食おう。今日は課長が奢ります。ちょっと二人の様子見を兼ねてな。昼からメーカーが入る。二人を紹介しときたい。頼んだぞ」 「今日の梱包と発送チェックは?」 「大丈夫。他に回してあるから心配するな」 「ありがとうございます。じゃ、朝礼が済んだら会議室こもりますね」 「今日は連絡事項ないから出て良いぞ」 「分かりました」 宝井の指示を受けて文也はデスクに戻ってくる。 資料を手に目の前の関とその隣の藍に微笑みながら声をかけた。 「パソコンとこないだの資料を持って会議室に移動です。」 新人二人は「はい」と返事をして準備にかかった。 会議室まで文也の後をついて歩く。 関は首筋の絆創膏に込み上がる笑いを噛み殺すのに必死だった。 藍はというと、その白く華奢な首筋の絆創膏を憂鬱な気分で睨みつけていた。 文也が何の気なしに振り返る。 じっとりと恨めしそうに絆創膏を睨みつけていた藍とバチリと目が合い、文也は後ずさった。 「あ、藍くん?機嫌悪い…のかな?」 相当に顔が怖かったのだろう、藍は焦りながら片手を突き出しブンブンと振った。 「ちっ!違いますっ!あのっ!誤解ですっ!」 文也はチンプンカンプンといった具合に首を傾げた。 「大丈夫っすよ。ちょっと朝から情報過多でパニック気味なだけっすから」 「…藍くん、今日まだ何も詰め込んでないけど…大丈夫?」 眼鏡越しの上目遣いにクラクラ魅了され藍は引き攣りながら笑った。 「大丈夫です。プライベートな事なので」 ドンッと関の脇腹にエルボーを打ち込む藍。 「ヴッ!!…ぉぃっ巻き込み事故だろがよっ!」 「余計なアシストいらないからっ!」 「せっかく力になってやろうとしてんのに」 「関が言うなっつーのっ!原因のアレはおまえがっ!」 藍が歩き出していた文也の首筋を指差したタイミングで、文也が怪訝な表情で振り返った。 「…朝から随分はしゃぐなぁ二人とも。仲良しもいいけど、営業はそれだけじゃ上がれないよ」 眼鏡のテンプルに指をかけクイっとレンズの位置を合わす文也。 「す、すみません」 シュンと頭を下げる藍。関もペコリと頭を垂れる。 藍に関しては頭の犬耳がペタンとしなだれ、尻尾もギュッと縮こまり垂れているように見える。 「はいっ!じゃ、気分を切り替えて勉強会ですっ!」 会議室に入った文也は長机にパソコンを置き、資料を開きホワイトボードを引き寄せ、メーカーの名前を書き始めた。
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