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23 午前の勉強会が終わると、文也はパソコンを片付けながら二人に向かって宝井と食事に行く事を伝えた。 「今日は先輩…あ、いや、課長の奢りだからね!食べたい物ねだるといいよ。」 「高橋さんと宝井課長って、凄く仲良いですよね?」 関の問いかけに文也は苦笑いを返した。 「あれ?言ってなかったかな。宝井課長は僕が大学の時の先輩なんだよ。腐れ縁てヤツだな。だから先輩呼びが直らなくてね、いけないよね」 コテンと首を傾けて見せる姿に藍はたまらなく感動していた。 可愛い…こんな後輩と腐れ縁とか!宝井課長は一体どんな徳を積んで来たんだ。 藍は眉間を指で挟んで何やら独り言を呟きながら天を仰いだ、 「おい…怪しい行動すんなって。怖ぇよ。」 関は藍の肩に肩でぶつかってみせた。 「へ?あぁ…ごめん。でもぉ〜」 「でもじゃねぇよっ」 新人二人が小突きあっている間に文也は会議室を一人後にした。 若い子は何で盛り上がってんのかサッパリ分からないなぁ〜。ま、そんな事より、今日は蕎麦が食べたいなぁ〜。でも、藍くん達はやっぱ若いから肉かなぁ〜。 胸元に抱えたパソコンと資料を抱え直しながら宝井の元へ戻った文也。 デスクで作業していた宝井がフと顔を上げ文也に気付く。 「おぉ〜終わったか。飯、どこが良いかな?」 「お疲れ様です。ほとんど今週分は終わりましたよ。昼はぁ〜、どうでしょう?もうすぐ戻ると思います。なんか、二人で盛り上がってたので置いて来ちゃいましたよ」 文也はハハッと笑いながらパソコンを自分のデスクに置き、資料を引き出しにしまった。 そして、宝井のデスクに歩みよる。 「箸が転んでも面白い年頃なのかね。俺達にもそんな時があったなぁって、昨日の事のようだがな」 「フフ、何バカな事言ってんですか。もう何年も昔です。僕たちにもそんな頃あったんだなぁって…なんか寂しくなりますね。老いって怖い。」 「文也は年相応には見えねぇよ。眼鏡の下が童顔だからかねぇ。羨ましい」 宝井は席から立ち上がりジャケットを羽織りながら文也の髪をクシャッと撫でた。 ちょうどそのタイミングで新人二人が戻ってくる。 藍は頭を撫でられる文也を見てしまい、何とも言い難い表情だ。 関はチラッと藍を確認し、また面白い場面に遭遇したもんだと少し頰が緩んだ。 「たっ!高橋さんっ!」 宝井の手が離れ、文也が振り返る。 「はい?どうした?」 「いやっ…あのっ…昼…お二人はいつもどこへ行くのかなぁって…」 藍はまさか、宝井に向かって関の時のように「離せっ!」と言うわけにも行かず、話題に気をつけながら、文也をこちらに引きつけた。 文也の後ろから現れた宝井がノシッと彼の華奢な肩に腕を回して「俺達は大体下の道を曲がった角にある蕎麦屋だな。な!文也。」と言った。 宝井と文也の顔の距離が近くて、藍はどうにも落ち着かなかった。 二人が仲良しだというのは嫌でも伝わってくる。 文也は宝井に対しては特別に警戒心がゼロで、ある意味彼に対してのパーソナルスペースはおかしな程狭かった。 自分に対しての距離感とあからさまに違うのが、ショックだったのだ。 「蕎麦…ですか…」 寂しげに呟いたのは何も蕎麦が嫌いだからではない。藍はむしろ好きだと思いながらも、目の前で好きな人が肩を抱かれているのが辛かった。 「あっ、二人は若いんだしっ!先輩っ!気を遣っちゃうじゃないですか!今日は宝井課長の奢りなんだから、たっかいお肉とかでもいいんだよ?」 「おいおい、たっかいは余計だろ。しがないサラリーマンなんだから、社会人らしくそこは遠慮しとけよ!」 顔を顰めながらも陽気に笑う宝井。 関は藍の様子を見ながら三人に分からない程度に肩を竦め切り込んだ。 「お二人がよく行くその蕎麦屋が良いです!なっ!榎木!」 そう言いながら、ポンと藍の背中をたたいた。 つんのめった藍はまだ落ち込んだ表情ではあったが、何とか口角を引き上げながら「宜しくお願いします!」と会釈した。
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