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「どうりで懐いてるはずだ」
「あ、ソレ違うっス」
「あ?」
宝井の眉間の皺を眺めてから、関は冷静に呟いた。
「課長…ゲイとか平気な人っすか?」
「クールビューティー関…よくわかんねぇけど、色々ぶっ込んでくるな。」
「それ次第でお話は続きます」
「…俺は女の子が大っ好きだから、男相手にどーのとかは分かんねぇな…ただ、否定はしないつもりだ。人それぞれだからな。…あ…」
宝井は関に向かって気付いたとばかりに人差し指を突き出した。
関はニッと笑う。
「あ…です」
宝井は自分の手のひらでパチンと額を打った。
「マジかよ…え?榎木が…だよな?」
「そっすね。しかもあれ、だいぶ拗らせてますよ。7年越しの片想いは重いっすね。高橋さん、逃げきれないんじゃないかなぁ」
関はククッと整った顔を歪めながら笑った。
宝井は腰に手を当てて小さな溜息をつく。
榎木の気持ちを否定するつもりはない。
7年も片想いしてたんじゃ、抑えが効かなくなる事も出てくるだろう。しかし、同じ課で教育担当と新人とはまた厄介な関係だ。
宝井は文也がしっかりしている割に、抜けているのを良く知っている。悪意のない押しにも弱い。
ほっといて平気だろうか…
眉間に皺を寄せる宝井を見て、関が続けた。
「大丈夫っすよ。アイツ…めちゃくちゃ良い奴なんで…まぁ、高橋さんが傷ついたりする事はないっつーか…」
宝井は苦笑いして関の頭を撫でた。
「…しゃーねぇーなっ…んじゃ、おまえの言葉、信じるか!」
「…ウス」
関はネクタイを握った。
何故だか胸元がざわついたせいだ。この小さな灯火みたいなもんが何かを昔にも感じた事がある。
俺、こんな惚れっぽかったかな…
関は頭を撫でた宝井のクシャッとなった笑顔に反応していた。
男っぽく大雑把で無神経。人の機微には敏感なくせに大概をもって恐らく自分の事に関しては鈍感というタイプだ。
手も背も自分よりデカいし、骨張った指なんて、間違いなく女子が喜ぶ形をしている。
関は男もイケる口だか猫になった事は一度もなかった。
「当てられてんのは俺かよ…」
「あ?何か言ったか?」
小さく独り言を呟いた関に宝井が段ボールを抱えながら振り向いた。
「いーえ、あ、足元、危ないっすよ」
「ぅっわ!早く言えよっ!っぶねぇ〜」
下に積まれた段ボールに躓きかけた宝井が文句を言う。
「年っすね」
「おいっ!」
「ハハッ!冗談です。はいっ!それ貰います」
「おう、頼んだ。」
二人が会議室を整理していると、そこへ何故か一人で藍が現れた。
「あれ?出るんじゃなかったです…か?」
藍はぎこちなく二人に問いかけた。
ジャケットを脱いで腕まくり、ネクタイは胸ポケットにインした宝井と、淡々と段ボールを片す関が藍を見つめ、ほぼ同時に呟いた。
「高橋は?」
「高橋さんは?」
「…ぇえっとぉ…すぐ…いらっしゃいます」
藍は歯切れ悪く答えた。
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