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会議室が有意義に使える状態になった頃、コーヒーのいい香りだけを纏った宝井と関が戻って来た。
「おー、片付いたな。あと10分くらいで着くらしいから」
宝井はそう言うと文也に何かを言い残し会議室を後にした。
「課長は?」
関が立ち去った宝井の背中を見つめたまま文也に問いかけた。
「センパ…か、課長は他の仕事もあるからね。僕たちにつきっきりともいかないよ」
「別件はすぐ終わるんですか?」
藍が文也に聞くと、文也は苦笑いしながら返事をした。
「多分戻ると思う。ここのメーカーさんの時は…ちょっとね」
藍と関は文也の微妙な言い回しに首を傾げた。
「やぁ!久しぶりっ!高橋くんっ!」
元気良く挨拶しながら会議室に入ってきたのは、メーカー勤務の坂巻だ。
坂巻は派手なスーツに驚くほど趣味の悪いネクタイを重ねている。その後ろからまだまともそうな男性が現れた。
「お久しぶりやなぁ高橋さん」
関西訛りのその男性は、恐らく見た感じ宝井と変わらないくらいの年齢で、先に登場した坂巻よりずっと紳士に見える。
手にしたパンパンの鞄を長机に置いて、文也に手を差し伸べた。
文也は苦笑いしながら、その手を握ろうと手を伸ばす。と、関西訛りの男性は文也の手首をガシッと掴み、そのまま胸の中に抱き寄せた。
ポンポンと背中を叩きながら耳元で「会いたかったわぁ〜」とセクシーに囁いた。
「聖(ひじり)さんっ!」
腕の中で身を捩る文也。
「うおっとっ!ありゃ、宝井さぁ〜ん、居てはったんですかぁ〜…こりゃ、残念」
後ろから肩を掴まれ文也から引き剥がされた関西訛りの聖と呼ばれた男がボソッと呟くと、宝井は肩を竦めながら返した。
「富永さん、懲りないっすねぇ、高橋はお触り禁止なんですよ〜。それより、うちの新人を紹介するんで覚えて帰って下さいね」
片眉をピクピクさせながら文也を遠ざけさせる宝井。
関は途端に文也が渋い表情で微妙に言い淀んだ事を思いだした。
なるほど…この人が原因で課長が護衛…ゲイか…
関は下から見上げるように聖を盗み見た。
「新人さんですかぁ、うちも自己紹介せなあかんなぁ。どうもっ!こちら上司の坂巻健(サカマキケン)さん!俺は平社員の富永聖(トミナガヒジリ)言います。よろしゅうですわ」
ニヤッと笑う聖。塩顔の良さを全て集めたようなそのルックスは間違いなく女性にモテる。
女が気の毒になるな…こんな男前がゲイとは…。
関は内心呟きながらも、文也に近づこうとする聖の気持ちは分からなくもなかった。
文也には中性的な魅力がある。色白で華奢だが、それなりに筋肉がある身体つきで細身のスーツがヤケにエロく見えるのはそのせいだ。おまけに本人が自覚なく弄る眼鏡が知的な中に魅惑的な何かを感じさせる。男ならそれを外して乱れた顔が見たいと思うだろう。
チラリと藍に視線を移すと、彼はジッと獲物を狙うかのように瞳に鈍い輝きを宿し聖を見つめていた。
ゴクッと関の喉が鳴る。
コイツこんな顔すんのな…やっぱり面白い。
関は満足そうにほくそ笑んだ。
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