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その日は社内の案内と、会議室での主力商品の説明に終わった。
二人は至って真面目で、パソコンを開いてホワイトボードに記された資料にないあれこれを自分なりにまとめていた。
後ろからそんな二人の画面を眺めて感心する。
「二人とも良くまとめられてるね。一週間みっちり叩き込めばすぐ外回りも連れて行けそうだよ」
二人の肩をポンポンと叩くと、藍は文也に触れられた肩をジッと見つめた。
その視線に気づいた文也は慌てて手を退ける。
「じゃ、じゃあ今日はここまで。二人ともお店の場所は分かるかな?」
「高橋さんも一緒に行かないんですか?」
関がパソコンの画面を閉じながら文也を見上げた。
「ぁ…あぁ…僕はまだ商品の梱包が済んでなくて。少しだからそれが終わったらすぐ向かうよ」
「あのっ!」
「っ!ど、どうかした?」
「て、手伝います」
藍が勢いよく席を立ち文也の面前に詰め寄った。
文也はその勢いに押されて身体が後ろへ反ってしまう。
「アハ、大丈夫大丈夫!梱包っていってもね、本当、これくらいの箱に三つ四つパーマの1液と2液を詰めるだけなんだ。一人ですぐ済むから」
文也の言葉を聞いた藍はシュンと肩を落とす。昔も犬っぽいところがあったけど、あの頃は可愛らしい子犬といった感じだったのが、今じゃ大型犬に見える。あからさまに頭に見える犬耳がペタンと元気なく折れたように見えた。
文也は並んで店まで行くのが気まずいと思い、無理に遅れて行くつもりだったのだ。
しかし、こんな藍を見るとどうにもいたたまれない。自分の良心が痛む思いで、二人に向かって笑顔を向けた。
「じゃあ…少しここで待てるかな?梱包を済ませたら一緒に行こうか?」
「本当ですかっ!待ってますっ!」
藍の折れた耳はピンと立ち上がり、背後には大きな尻尾がブンブンとご機嫌に揺れている様に見えた。
文也は指先で頰をポリッと掻いてハハッと笑った。
「じゃ、関くんもごめんね、少し待ってて」
「うっす」
クールな関は会釈して文也を見送った。
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