New Year's Eve を君と・・・

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◆◆◆◆◆  午前中、嬉々として買った食料品や酒に手をつけないまま、岸田は年を越そうとしていた。唯一、テーブルの上にはレンジで温め直したコーヒーが置かれていたが、それも冷めきっている。  時刻は夜の22時。ソファーに座って大晦日の番組をザッピングしていたけれど、息をするのも辛くて早々に寝ることにした。が、その前にシャワーや歯磨きを済ませなければならず、四苦八苦しながら やり終えると、そろりそろりと横になる。ふと隣を見れば いつもいるはずの原がおらず、寂しくなった岸田は恋人の枕に顔を埋めて気持ちを紛らわせるのであった。  最初に目が覚めたのは朝の6時半だった。痛みのため眠りの浅かった岸田は『あともう少し』と再び瞼を閉じ、次に起きたのは10時過ぎ。カーテンの隙間から差し込む光を薄眼で見つめながら ぎこちなく起き上がった。  少しだけ窓を開けて外の様子を伺うと、重い雲が垂れ込んでいる。 「初日の出は見れなかったんだろうな」と呟いた岸田は今日何をするかを考えた。朝は市販のおせちを当てにシャンパンでも飲むつもりでいたが、片手が使えなくて栓が抜けない。午後から氏神様にお参りに行く予定も、歩くのがおっくうで取り止めだ。兎に角、鎮痛剤を飲むために何か腹に入れないと…… そう考えた岸田はヨーグルトにハチミツを混ぜて口に運んだ。  寝間着姿で台所に立ちスプーンを舐っている姿が虚し過ぎる。せめて正月気分を味わいたいとテレビのリモコンを押すと、煌びやかなセットの前でお笑い芸人が騒いで気晴らしになったが、彼らのギャグに笑おうものなら痛みのせいで呻き声を上げてしまう。こりゃいっそのこと、酒で紛らわした方がいいかも――― そう考えた岸田は、湯のみに日本酒を注いでレンジにかけた。それをしみじみ味わっていると今度は腹が減ってきて、冷蔵庫から おせちを出して つまみ始めた。  そんな時、ふと脳裏に浮かんだのは室井の横顔。『無事着いた』のメールでも寄越して来るのかと思ったが音沙汰がない。きっと今頃、女性陣が数日前から準備したおせち料理を食べながら屠蘇を飲み、親戚の子どもたちにお年玉でも配っているんだろう。自分をこんな目に合わせておきながら…… と恨み節を零しつつ、今度はウィスキーのお湯割りを作ってチビチビやっていたら、玄関のチャイムが鳴って振り向いた。 ――― まさか、もう届いた?  昨日の夕方注文したバストバンドが着くには早過ぎるだろうと半信半疑で玄関ドアを開ければ、予期せぬ人物の登場に目を丸くする。 「原さん、どうして!?」 「具合が気になってね、一日早く帰ってきちゃった」  両手にキャリーバッグと土産物を抱えた原は「えへへ」と笑うと中へ入り、両手を伸ばして抱きしめてきた。「寂しかった」と甘く囁く声を打ち消したのは、岸田の悲鳴。何も知らない原から肋骨を押さえつけられた彼は断末魔の叫びをあげたのだった。
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