New Year's Eve を君と・・・

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 両親とのことを誰にも触れられたくない岸田は、姿勢を正して頭を下げた。 「ありがとうございます。でも、すぐに解決できる問題じゃないんで気持ちだけ受け取っておきます」 「こじれたまま時間が経つと修復が難しくなるんじゃない? 当人同士だと感情的になるから第三者が入ったほうが得策だと思うけど」 「義兄さんも知っての通り、元々親とはギクシャクしてたんです。俺は彼らにとって跡継ぎの存在でしかなくて、それが果たせなくて『役立たず』と罵られたんです」 「そんなこたぁないだろう。お義父さんもお義母さんもいつも君を誇りに思って……」 「彼らの期待に応えた時だけですよ。だから、進路や就職で思い通りにならなかった時の反発は凄かった。恥ずべきことは何もしていないのに価値のない人間の様にあつかわれて。そんな接し方をされ続けられたら修復する気にもならない。正直、縁を切って清々しているんです」  すっかり沈黙してしまった室井に、岸田は更に言い募った。酒が入っていたせいもあるが、心の奥底に貯めこんでいた不満がこの時とばかりに吹き出す。 「そして何よりも、彼らを失望させたのは俺の性癖でしょうね。それを知られた時には『おぞましい』と茶碗を投げつけられました。もう俺は存在すら許されないんですよ」  一気にまくし立てた岸田は肩で息をし、興奮で唇が震えた。しかし、それに対する室井の言葉はこうだった。 「彼らから受けた仕打ちを口にすればするほど『もっと自分を見て欲しい、愛して欲しい』って言っているように聞こえるけど」 「なっ!」 「酷く理不尽なことをされたのは分かった。そして、傷ついた心がまだ癒えていないことも。だけど、そんな気持ちを抱えたままだと辛くない?」 「辛さを通り越して諦めました」 「どちらかが歩み寄らなければ、どちらかが死ぬまでこの状況が続くんだ。つまり、一生苦しむってこと。そんなの大変だろう」 「そうかもしれませんね」 「お義父さんも君も依怙地だから俺が橋渡ししようと言ってるんだ。尽力するから頼って欲しい」 「この問題にあなたを巻き込みたくない。父の逆鱗に触れて義兄さんの立場まで悪くなるのは耐えられない」 「そうならないように上手くやる。だから、助けが欲しい時は遠慮なくいって」  そう言うと、室井は岸田の手に自分のそれを重ねた。  両親のみならず親戚達にも背を向けられている岸田は、この義兄の言葉を嬉しく、そして心強く感じた。しかし、手の甲に重ねられた指に力がこもった時に我に返った。いくら相手を気遣う行為であっても同性の手に触れるなんてあるだろうか? 握手以外に……  岸田が不穏に感じたのと室井の手が離れるのは、ほぼ同時。彼は何気に引っ込めながら苦笑した。 「だけどさ、今時跡継ぎにこだわるなんて珍しいよね」 「田舎の旧家ですからね。俺は80年ぶりに生まれた男子で、誕生時には親戚一同が集まって盛大な祝宴が催されたそうです。婿養子として家に入った父は親戚の期待に応えたくて是が非でも俺に継がせたかったんでしょう」 「自分はごく普通のサラリーマン家庭で育ったから【家】とか【跡継ぎ】っていうのがとても新鮮だ」 「義兄さん、正月休みに無理して嫁の実家に顔なんて出さなくてもいいんですよ」 「いやいや、その逆。実家が都内で親類が少ない俺は帰省とか親戚づきあいっていうのに憧れて、元旦に催される本家の新年会にワクワクしながら参加させてもらっているんだから」 「物好きだなあ」 「ビール瓶片手にテーブルを渡り歩くのが楽しくてしょうがない」 「お年玉を渡すのが大変でしょうに」 「『今から配るからみんな並んで~!』って言うのが面白くてねぇ」 「奇特だな……」と、感心する岸田がグラスを飲み干すのを見届けた室井は、再び酒を注文した。まだ飲むつもりなのか? と、呆れる岸田を尻目に頼んだのは10年物の紹興酒。それが瓶ごと湯煎した状態で運ばれてきたので『いい加減にしろ』とばかりに睨みつければ、室井が言い訳のように言った。 「実は、もう一つ頼みごとがあるんだ」 「頼みこと?」そう言いながら注がれた紹興酒をあおり、そのまろやかな味わいに喉を鳴らした時である。室井の一言でむせかえった。 「広告のモデルになる気ない?」
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