納豆食う! 納得!

1/1
前へ
/1ページ
次へ

納豆食う! 納得!

 ある日のお昼の喫茶店。  食事を終えて、ぼくはコーヒーをのんびりと飲んでいた。  その後ろの席から、やや怒ったような声が聞こえてくる。 「物事にはな、TPOというものがあるんだ!」 「T、トイレで、P、ポトリと、O、落ちた! TPO!」 「なにがだ!」  どうやら、上司と部下らしい。  上司の声は、かなり渋くてかっこいい。これがイケボというやつか。  姿は……見なかった。うん、見てない。小太りのおっさんがいたけど、気のせいだ。  部下は、こちらからは見えない。声も、普通としかいいようがない。やや軽い感じか。  上司は続ける。 「Tはタイム。時間だな。Pはプレイス。場所だ。Oは……なんだったか」 「おばさん! タイムプレイスおばさん!」 「誰だよそれ! 確か、オケージョンだ。場合ってことだ」 「オッケー! ジョン! タイムプレイスジョン!」 「ジョンじゃねぇ! いいか、顧客の前では、そのダジャレを振りまくなよ?」  部下というより、近所の子どもに説教しているかのようだ。  おっさんも、いや、上司も、さぞかし大変だろう。 「ダジャレだってな、好きな人もいれば、嫌いな人だっているんだ」 「それは、だれじゃ? だじゃれだけに!」 「はぁ……」  上司の吐息と共に、店内がシラーっと静まり返った。  ふたりの話を聞いてる人が、ぼく以外にもいたようだ。 「わかりやすく説明するとな……例えば、納豆だ。好きな人は毎日でも食べたい。でも、嫌いな人は見るのもイヤだ。そういうことだ」 「わかった! 納得した!」 「そうか!」 「納豆食うだけに! なっとくぅ!」 「ダメだこりゃ!」  次の打ち合わせの時間だといって、ふたりは店を出て行った。  少し泣きそうな顔をしていた上司に、幸多からんことを。 <おしまい>
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加