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 美味いの言葉しか頭に浮かばない。  気持ちまで満たされる。心地よく頭を痺れさせる酔いが、全身を包む。  缶をあおる。底に沈んでいた固形を口に流し入れ、噛んで味わう。  夢中で飲んで食べて、気づいたら逆さにしても一滴すら出てこない。終わってしまったという喪失感に、愕然とする。  まだ飲みたいという強い情動が湧き上がる。味わう幸福な時間に陶然と浸りたい。  そうだ、もう一本買えばいい。自動販売機に目を向ける。  目を疑う。押しボタンにはすべて、無情にも「売切れ」の赤い文字が光っていた。  いつのまに。  これが最後の一本だったのか。  
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