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肩で息をしながら角を曲がると、パティシエール・スズコはすぐだ。店先には誰も並んでいない。つまり、11時発売分のプリンはすべて売り切れたということだろう。
ダメもとで店内を覗いてみたけれど、ショーケースのプレミアムプリンの一角だけが笑っちゃうほどきれいに何もない。もう13時近いのだから、当然と言えば当然だ。一縷の望みをかけていただけに残念ではあったが、絶望するにはまだ早い。僕にはまだ15時の回が残っている。何なら時間休を取って今から並んだって構わないくらいだ。チャンスはあと1回しかないのだから、何としてでも手に入れなければ……!
「申し訳ございません、お客様。プレミアムプリンをお求めでしたでしょうか? 11時の分はすべて売り切れてしまいまして……」
落胆しながらも固く拳を握る僕に可愛い制服を着た店員のお嬢さんが声を掛けてくる。
「ええ、そうだったんですけど、さすがに今頃来たんじゃ遅すぎですよね。大丈夫です。15時のを手に入れますから」
息せき切って駆けてきたくせに、僕はそこまで必死じゃないんですよ、と余裕を見せる。男の性がそうさせたのだが、お嬢さんはたちまち申し訳なさそうに眉を下げた。
「それが……先ほど突然オーブンが故障してしまいまして。いつ復旧するかハッキリしないものですから、オーナーの判断で今日の販売は取りやめとさせていただくことに……」
ことに……ことに……。
お嬢さんの丁寧な謝罪がだんだん遠くに聞こえてくる。一緒に僕の意識まで遠のきそうだ。
なぜ!? なぜだ、オーブンよ! さっきまでいつもどおりに頑張ってきたのであろうが!? どうして今のタイミングで壊れる!? 僕に恨みでもあるというのか!?
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