エマージェンシー・プリン

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「──うん? 茶碗蒸し……!?」  茶碗蒸しもプリンも材料は卵だ。卵は未開封のパックがまるごとある。閃いた僕は、スマホで『プリン 材料』と検索した。その結果、一番簡単なレシピの材料は、卵、牛乳、砂糖、バニラエッセンスの4つだけだった。 「おおおおお! 神よ!!」 亜由美は自分でもお菓子作りをするから、たぶんバニラエッセンスもあるはずだ。その奇跡に僕は劇的ゴールを決めたサッカー選手のごとく膝をついて天を仰ぐ。あまりの大声に殿が飛びのいてしまうくらい。手作りなら、お手軽に買ってきたものよりずっと誠意が感じられるはずだ。 作ると決まったらあれこれ迷っている暇はない。着替える間も惜しんで亜由美のエプロンを借り、スマホのレシピを頼りに取り掛かる。やればできる。僕は子どものころからそうだったんだ! ──約一時間後。 どうにかこうにかプリンらしきものが完成した。けれど、カラメルを作る際に勢いよくお湯を入れてしまい、カラメルが予想以上にはねて(レシピにも注意書きがあったにもかかわらず)火傷するし、ザルで卵液を濾す際に何度もこぼしたし、いざ湯せん焼きしてみたら、()が入りまくって全然美しくない。試しに一つ味見してみたけど、カラメルは大人の味というレベルを超えてハッキリと苦いだけだし、プリンもなめらかとは程遠い。僕は一体何を作ってしまったんだろう……。 「ただいま~! あれぇ、なんかいい匂いするね?」 「ヒィ!」 いつの間に帰ってきたのか、キャリーケースやお土産の紙袋を手にした亜由美が姿を見せる。疲労困憊の僕と戦場のようなキッチンを背景に、無邪気な殿だけがピョンピョンと飛び跳ねて熱烈歓迎だ。 
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