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「お、おかえりなさい……。きゅ、急な出張で、た、た、大変だったね……」
緊張のあまり口がうまくまわらない。喉は一瞬で干上がったようにカラカラだ。
「うん、まぁね。でも思ったよりうまくいったよ。それより何か作ってたの? あなたが料理するなんて珍しいじゃない? どれどれ~?」
興味津々で僕の背後に隠されたプリンもどきを覗き込もうと、亜由美が近づいてくる。
ああ、いよいよ万事休す! こうなったらもう潔く己の罪を告白し、心からの謝罪をするよりほかない。
「亜由美様! あなた様の大切なプリンを食べてしまいました!! なにとぞ、なにとぞ平にご容赦ください!!」
罵られる、平手打ちされる、蹴飛ばされる、家を追い出される。亜由美の逆鱗フルコースを想定しつつ、床に突っ伏して土下座する。小動物のごとく震えながら沙汰を待っていると、慣れ親しんだコロンの香りがふわりと鼻先をかすめ、カサコソと紙の触れる音がした。
「あなたが食べちゃったプリンって、これのことかしら?」
ぶんっ! と音がするくらい勢い良く顔を上げると、膝をついた亜由美がパティシエール・スズコのプレミアム・プリンを手にしていた。
「えっ……ええっ!? どうして……」
頭がこんがらがる僕に亜由美が話してくれたところによると、空港からの帰路でSNSをチェックしていたら、フォローしているパティシエール・スズコのアカウントで『壊れていたオーブンが直りました! 突然ですが18時よりプレミアムプリンを販売いたします』というお知らせがあったのだそうだ。電車が到着する時間もバッチリで、ほとんど並ぶことなく四つも入手できたのだという。
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