エマージェンシー・プリン

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なぜこんな時に思い出したのかはわからない。わからないが思い出してしまった。同僚の田中と昼のラーメンをすすっている最中に。雷にでも打たれたような衝撃と驚愕、それによってもたらされる最悪の事態。反射的に息が止まり、固めに頼んだ中太ちぢれ麺と唐辛子、モヤシの先っちょみたいなものが気管に入りかけ、盛大にむせる。繁盛店だけに店内は賑わっていたが、僕のあまりの咳込みようにあちこちからの視線を感じる。 「おいおい、大丈夫かよ?」  苦笑した田中がそばのピッチャーから水を注ぎ足してくれる。カランと鳴る氷の音が涼しげだが、事実に気付いてしまった僕の心境をさらに冷たくさせるような効果音だ。 ああ、これがせめて喉にマイルドな醤油か豚骨ラーメンだったなら──今更後悔しても、もう遅い。僕は大好物の激辛みそラーメン大盛りを食していたのだ。そのせいで半ば死にそうになりながら呼吸を整え、涙と鼻水を拭う。 「あ、ありがと。ご、ごめん……」 背中をさすってくれた田中にたどたどしく謝罪し、顔を上げるのも恥ずかしく、周囲に向けて頭を下げまくる。お食事中お騒がせして申し訳ありません。本当にごめんなさい。
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