チルチルの矜持、ミチルの憂鬱

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智留(さとる)くんて、マッサージが得意だよね」  確かに俺は按摩がうまいらしい。  親から小遣いをもらう代わりに按摩をしていたせいか、人のツボみたいなものが何となくわかるようになっていた。  小学校高学年の時の担任が、母性の塊みたいな人だった。  生徒からも保護者から慕われていて、いつも生徒たちに囲まれているような先生。  そんな中、誰かがご機嫌取りのつもりなのか、先生の肩に手を伸ばして肩を揉み始めた。 「あらー、ありがとう」  と先生は言っていたけれど、その同級生の手つきはひどく、まるでピアノを弾いているかのような生ぬるい、小学生の俺から見てもど素人と呼ばざるを得ないやり方だった。  ーー俺の方が絶対にうまい。  自己顕示欲を抑えられなかった俺は、そいつが手を離したと同時に先生の肩に手を伸ばし、親指に力を入れた。  すると先生は一瞬だけハッとして肩越しに俺を確認した後、すぐに顔の筋肉を弛緩させた。  そんな先生の様子に、周囲にいた同級生たちがみんな俺を見て、変な空気になった。  みんなに取り囲まれながら先生の肩を黙々と揉んでいる時間がたまらなくなり、俺は先生の肩から手を離した。  すると先生は、とても名残惜しそうな表情を浮かべて言った。 「智留君は、整体師さんになったらいいと思うわ」  その言葉には熱がこもっていた。  メジャーリーガーになりたいという生徒に「きっと〇〇君ならなれるわよ」ととりあえず言うみたいな温度ではなかった。  俺の人生で、初めて誰かに誰かより秀でていると認定された瞬間だった。
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