チルチルの矜持、ミチルの憂鬱

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 日曜日の夕刻の電車に乗るなんていつ以来だろう。  人もまばらな車内で、蒼太は窓におでこをくっつけて外の景色を見ている。  車内にはレジャー帰りなのだろうか、蒼太と変わらぬ年頃の女の子が、両親に挟まれて足をブラブラさせて座っている。  見ないようにしていても、視線はどうしたってそちらにいってしまう。  絵に描いたような幸せってまさにこんな感じなんだろう。  私だって、ほんのついさっきまではそんな絵の中にいたのかもしれない。  帰る場所がなくなったことを急に思い知らされたようで、心細くなる。  多くのものを望んでいたわけではなかったのに。  それなのに、どうしてこうなってしまったのだろう。  ふと気が緩み、智留との結婚生活に思いを馳せる。  授かり婚から三年半の月日が経っていた。付き合い始めから数えれば四年になる。  この月日の中で、自分の選択に自問し、時に後悔し、そしてその度にやり過ごしてきた。  蒼太が生まれてきてくれたことはかけがえのない喜びだとしても、せめてもっとタイミングを見計らうべきだったのかもしれない。  智留の俺様気質を男らしいと勘違いするフィルターを、欠陥品だと認識できる程度にまで恋心が冷めてから、生涯を共にする相手か否かを判断すべきだったのだ。  つきあって二か月でそれを見極めなくてはならない状況にしてしまったことが悔やまれる。  智留の避妊に対する甘い姿勢に毅然とできなかったことは私の咎なのだとして、その過ちを一生背負わなくてはならないなんて。  ゴミのポイ捨てで無期懲役に処されたかのようだ、完全に罪と罰の天秤の片方が地面にめり込んでいる。  そんな自分の悶々とした思考にハッと気づかされる。  咎とか過ちとかって、私は智留と結婚したことを「失敗」だと認定しているのだということに。
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