終章

1/2
前へ
/21ページ
次へ

終章

 誠に、罪人の尋問の仕事が回ってきた。  尋問における放免の役目とは、自白を強要するために罪人へ暴力を振るうことだ。  かつて同じようなものを受けた身としては、やりたくない。  以前は、必死に何も感じないよう努めながらも淡々とこなしていた。  ただ、雅近の影響だろう。誠は今回から、罰を覚悟でこっそり手加減をしてやると決めていた。  今日尋問する罪人を迎えに、手燭を掲げて獄舎を歩く。  そしてその途中。けほけほ、と乾いた咳が聞こえ、足を止める。  その牢を覗き込むと、十五を過ぎたあたりの少年がいた。  親の連座で捕らえられた、あの商家の若君だ。 「おい」  思わず声を掛けると、少年はびくりと体を震わせる。 「こちらへ来い。手を出せ」  少年は怯え切った目で誠をちらりと見た。  逆らっては酷い目に遭うと思ったのだろう。這うように緩慢な動きで二人を隔てる格子に近づいて、恐る恐る手を持ち上げる。  誠が格子の隙間から自分の握り拳を差し入れると、殴られるとでも思ったのか、少年は縮こまった。  それに気づかない振りをしつつ、誠は少年の手を取って、その上に雅近から貰ったものをのせてやる。 「これは……」 「丸薬だ」 「ですが、なぜ……」 「良いんだ。飲め」  誠は水の入った竹筒も牢の中に置いてやった。  少年は丸薬を大事そうに胸に抱きしめる。「……ありがとう、ございます」 「名を、教えてくれるか?」 「……(たえ)。周りからは、そう呼ばれておりました。その者達は殆どが、捕らえられたか、どこぞへ夜逃げしてしまいましたが……」  そこまで言って、はっと顔を上げる。 「逃げ延びた者は、お見逃しください! 苦しむのは、わたくし達だけで十分です! どうか、どうか御慈悲をっ………………!」 「大丈夫だ。今の話は誰にも言わない」  妙は、ほっと息をついた。そして、再度咳き込む。 「…………可哀想に」 「え?」 「私も、連座などで罰を受ける者はいない方が良いと思っている。助けてやりたいが、立場上できないんだ。すまない」 「あなた様が気に病むようなことでは…………」  そう返す妙の目が、熱に浮かされたように潤む。  体調が本格的に悪化し始めたのかと誠は心配して、再び手を伸ばす。 「大丈夫です」 「そうか。なら良かった………………妙。苦しいだろうが、辛抱しろ。生きている限り、いつか救いがある」  頭を撫でてやると、妙は頬を朱く染める。  俯いたせいで、切り揃えられた前髪に妙の表情は隠れている。  しかし、その死角で唇の端が少しだけ上がっていた。  
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加