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「春陽、あのね、、、」
幼馴染の菜乃香に呼び出される一週間前。
僕は桜並木の下を自転車で走っていた。田舎に住む僕の町には中学校が一つしかなく、僕は雨の日も風の日も自転車で学校へ向かう。この桜並木を通ると、僕は毎年季節の流れを体で感じる。
「うっひょーー」
誰もいない坂道を、僕は声を上げながら下る。春は暖かくて、花の香りがどこからともなく香ってくる。僕の一番好きな季節だ。僕が坂道を下り終わる頃、坂の上から歪な音が響いた。僕は自転車を止めて後ろを振り返った。
「菜乃香?」
「あー!春陽!」
「どうしたの?」
「バックから水筒落としちゃって!」
菜乃香が不安定に自転車を支えながら叫んでいる。僕は自転車を戻してまた坂を上がった。菜乃香は昔からおっちょこちょいで、目を離したすきに事件が起こってることなんて日常茶飯事だった。
「水筒潰れてない?」
「うん!大丈夫!ちょっと凹んじゃったけど…」
「相変わらずだな」
「えへへ」
菜乃香は不器用な笑みを浮かべた。僕と菜乃香の家はとても近く、昔から気付けば一緒にいた。中学に入ってからは男女を意識しだす同学年が増えたこともあり、一緒に過ごす機会は減ってしまった。だが、菜乃香は僕の初恋の人であり、その気持ちは今も変わっていなかった。
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