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一緒にいればいるほど、この人の男性としての魅力に気づいてしまうから困る。
実際、愛し合うことなどけして出来ない身であるというのに。
「ははは、すまんすまん。しかし、そのように上の空では稽古にならんぞ。しっかりしたまえ」
「……すみません」
「そういえば、朝の草むしり。康子と随分楽しそうに雑談に興じていたようだが、何を話していたのだ?」
「あ……」
まあ、中庭の目立つ場所での会話である。草に埋もれていたとはいえ、別の誰かに聴かれる可能性は充分考慮していた。この様子だと、蓮花は自分達の会話の内容までは把握していないらしい。
迷った末、映子は蓮花に、康子にした相談の内容を正直に話すことにした。それから――その相談の後、康子から聞かされた気になる話についても。
「実は女官の中で噂になっていることが。……縁花様が実は、生きているのではないかというのです」
「ほう?遺書もあったし、何よりこの後宮の警備は厳重だ。ネズミ一匹逃げられる構造でなかったと思うが?」
「はい。ですが……特別な方法でなら逃げることもできたのではないか、と。そう」
はっきりと尋ねてはこなかったが、映子もずっと気にはなっていたのだ。縁花は生きているにせよ死んでいるにせよ、どうやってこの後宮から逃れたのかと。そしてそれには、蓮花が一枚噛んでいるのではないか、と。
「たとえば。……後宮の中の誰かが、秘術を用いて縁花様をこの場所から外に連れ出したのではないか……と。空間を飛ばしてしまうような術や、あるいは翼が生えて飛んでいけるような術があれば、そういったことも可能であったのではないかというのです」
秘術、という物言いから誤解されがちだが。そもそも術を使う方法や、その媒介がどういうものであるのかは誰も知らないことなのである。なんせ、世界の外からきた、それそのものが神聖な遺物であるのだから。
帝が国中の書庫を片っ端から探しているせいで、なんとなく本の形式で秘術を記したものがあるのではないか?という印象は強くなっているが。何も、秘術そのものが本であるとは限らないし、もっと別の宝物があって、それを使うと簡単に摩訶不思議な術を使うことができる――なんてことがあってもおかしくはないのだ。実際、映子が過去に読んできた幻想小説の類ならば、宝玉を用いるものや短剣を用いるもの、鏡を用いるものなど数々の種類が存在している。現実でも、そういったものである可能性は充分にあるだろう。
「秘術を使う本や宝物の類を誰かが隠し持っていて、それで縁花様を生きて逃がした。……もしそのような人物がいて、見つかってしまえば……重罪は免れられないでしょう」
蓮花は何も答えない。それがかえって不気味だと感じながらも、映子は畳みかけるのだ。
「蓮花様、正直に仰ってください。……縁花様を逃がされたのは、蓮花様なのですか?」
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