<18・ヒジュツ。>

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 そう言われて映子が思わず視線をやったのは、彼女の机の下である。茶色の、漆塗りのような壷だった。正直華やかな蓮花が持つにしては随分無骨というか、なんとも庶民的な品だなと思ったのだが。 『見るな、疑問に思うな、知るな。世の中には、知らない方が良いこともある。これは、貴様の為でもあるぞ。いいな?』  あの時の蓮花の様子は、はっきり言って鬼気迫るものがあった。確かに映子が勝手に壷の中身を見ようとしたのは悪かったが、それにしたってあそこまで怒ることはないだろうと感じるほどに。  というか。怒ったというより、焦ったというべきか。ひょっとしてあれが。 「この間、わたくしが中身を見ようとしてお叱りになられた壷、ですか」 「正解だ。どうにも、ああいった道具には相性があるようでな。魅かれてしまうものはとことん魅かれてしまうらしい。逆に極端に相性が悪いと、その場にあるのにちっとも視界に入らなかったりする。きっとおぬしとあの壷は、相性がいいのであろうな」  彼は寝具から降りると、机の前に立った。乱暴に椅子をどけると、その下からずるりと壷を引き出す。 「これを俺に贈ってきたのは、殊更俺に執着する……なんというか、妙に怪しい、古美術商のような男であった。お上に知られたら厳罰であろうに、なんとも堂々と“こっそり大陸の外に船を出して、外の世界の遺物を回収して回っているのだ”と言ってのけるような馬鹿者よ。それほどまでに俺のことを信じていたのか、あるいはこのような花街の人間なんぞに告げ口する伝手もないと思ったのかは定かでないが」  蓮花の細い指が。壷の上にぴたりと貼りつけられるようにされた木の蓋、そこにかけられた紐をするすると解いていく。 「男は言った。秘術の力を宿した品は、皆本だとばかり考えているが、実はそんなことはない。大陸の外の滅んだ文明は、物語で語られる以上に高度なものばかりであった、自分も時々は実際に危険を承知で外へと渡り、多くの品々と遺跡をその眼で見ることがあるのだと。残念ながら絡繰の類なんぞは動かし方がわからなかったり、何やら動力が尽きていたりしてどうにもならないが……魔法、秘術の力を秘めたものはまだ力を残していることもある。そういうものを見つけては母国に持ち帰り、高値で売りさばいているのだと」 「やっぱりいるんですね、そういうこと勝手にやってる人は」
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