十年越しの告白

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 加藤は家に帰ると、すぐに自分の部屋に駆け込んだ。  荒くなる呼吸を自分の意思では止めることが出来なかった。  加藤は今まで、堀田のほとんどを把握して来た。それは、彼の自ら語ったことだけに限らず、行動も趣味も、感情に至るまで知っていた。  最初は、純粋に仲良くなりたかっただけだった。だけどいつからか、加藤は堀田を支配したくなった。  小さい頃は、同じ場所をわざと怪我して同じ痛みを知ろうとしたこともあった。だが、それを不思議がる大人たちの目を掻い潜るように加藤は誰にも知られないように、堀田のことを調べ尽くした。しかし、調べていく中で堀田の発言と事実はいつも一致していたことから「父は今は別居している」という堀田の言葉を加藤は鵜呑みにしてしまっていた。ただの高校生が戸籍を調べることは難しかった上に、堀田が嘘を上手く付けるというのが、加藤の中では誤算だった。  このタイミングでこの事実を知ったことは、加藤にとって喜だったのか哀だったのか。それは、本人にすらわからなかった。  ただ、記憶力が格段良いわけでもないのに、犯罪者のポスターを覚えてる訳も、文系なのに政治経済を避けた訳も、「つみ」という言葉に過敏に反応する訳も、全てが加藤の中で繋がった。  そして、堀田の大きな秘密を知ったことにより、加藤にはさらに知りたいことが出来てしまった。それは  『十年間、秘密を背負い続ける』  というこの感情だった。これを知ってこそ、堀田の全てを理解出来るのだと、加藤は確信していた。  「秘密を知ったら終わりじゃねぇよな。お前のその苦しみも、俺は知りたい。知らなきゃいけない。そして幸い、」  加藤は息をさらに荒げながら、口角を上げた。  「幸い、俺はお前のその感情を知ることが出来る…!」 ーーーー今日の別れ際、加藤は堀田に一つだけ質問をしていた。  「なぁ、お前の父親、なんて名前?」  「…鈴枝博高(すずえだひろたか)。元々婿養子だから俺の苗字ずっと変わってないし、俺にとってあいつは、永遠に赤の他人だけどな」 ーーーーー  加藤はその会話を思い出すと、満足気に椅子に座り、一人で呟き始めた。  「悪いな、堀田。お前の父親を通報したのは俺の母親だよ。女優を目指してた母は、むしゃくしゃして鈴枝博高を痴漢扱いしてたんだって。昔聞いた事があるんだ。本当は、何もしていない、無罪の男なのに。お前はこのこと知ったらどんな顔すんだろう…俺は親友に裏切られたお前の表情を見て、お前との関係を終わらせたいんだよ。可笑しな野望だって、お前は言うかな。けど、お前の絶望する顔も俺はどうしても知りたい。そんな顔は俺らの物語のラストにはぴったりだろ?あぁ、見てぇな、真実を知った時のお前の表情」  親と子は違う。それは確かなことだが、生憎俺には当てはまらねぇらしい。俺も母に似て、狂った性格してんだよ。  けど、その日が来たら、全部明かすから。あぁ、俺にも感じさせてくれよ。お前が背負ってきた十年を。  「なぁ、堀田。お前ならそれまで親友でいてくれるよな。だから、その日まで待っててくれよ」       『十年越しの告白』
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