0人が本棚に入れています
本棚に追加
堀田は握り締めた拳を見つめたまま、しばらく黙り込んでいた。加藤はそんな堀田を一瞬見ると、気だるそうに空を見つめた。太陽が沈み始めていて、日差しが眩しかった。
「あのさ…」
堀田が力強く、しかし波打った声で口を開いた。
「俺、」
堀田の言葉はそこで止まった。だけど、加藤は「なに?」等と催促することはなく、堀田が話し出すのを待っていた。
加藤はそれが最善策だと知っていた。
「俺、ずっと黙ってたことがあって。その、でも、加藤にはいつか話さなきゃなって、そう思ってて…」
加藤は思考を回転させた。堀田がずっと黙っていた秘密。
堀田のことはほとんど知っている。けど、俺の知らない話と言えば…
父親の話、か…?
加藤は確信を悟られないように表情を変えないまま話を聞いた。
「俺の父親さ、いつもイライラしてるような人で、母も小さかった俺も毎日のようにビクビクしてて。だけど、そこまで悪い人じゃなかったから一緒に暮らしてたんだけど…」
堀田は、拳を見つめたままゆっくりと話し始めた。
「でもある日、父が痴漢で現行犯逮捕されてさ」
加藤は驚きで思わず目を見開いた。
「父はそんなことする人じゃない。って俺は思えなくて、被害者の女の人もすごく怯えたって聞いて、あぁ、この人は罪を犯すような人間なんだなって思った。幸い、周りにその事件がバレることもなかったけど、俺はそこからずっと犯罪者の息子っていうレッテルを自分に貼りながら生きてきた。バレたらどうしようっていう不安よりも、俺はあいつの息子なんだっていう恐怖?みたいのに襲われて」
堀田の声色は少しずつ低く、そして早く、恐ろしいものでも前にしたような話し方に変わっていった。
「父はもう釈放されてどっかで生きてるみたいなんだけど、その、なんで俺がこんな話をしたかっていうとさ。俺、今日で十八になる訳で、大人な訳だろ?俺、ずっと大人になるのが怖くて、父みたいになったらどうしようってそんなことばっか考えちゃって…」
堀田は少し潤んだ瞳を、加藤に真っ直ぐに向けた。その視線に加藤はなんと言ったらいいのかわからない感情に襲われた。
「だから、もし、俺が人生の道を踏み外しそうな時に、お前に助けて欲しくてこんな話をした」「…。他には?誰かに話したのか?」
「いや、俺、お前くらいしか友達いないし。昔はもっといたんだけどな。やっぱ、なんか近づいたらいけないオーラでてんのかな?」
「んなことねぇよ」
加藤は真剣な眼差しで、そう言った。
「加藤は優しいよな。こんな、重すぎる話も聞いてくれて」
「当たり前だろ、親友なんだから」
「うん、ごめんな。話すか物凄く迷ったんだけど、大人になるって考えたら急に怖くなっちゃって。父さんみたいになったらどうしようって…」
『親と子は違うだろ』
加藤は自分でも本心からわからないそんな言葉を口には出来ず、ただ、「うん」と小さくうなづいた。
最初のコメントを投稿しよう!