二話

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二話

「……ッ……」 夕食後に沐浴し僧房に下がって間もなく、寝苦しさに襲われた。ベッドの中で身動ぎし、寝返りを打ち、謎の火照りを持て余してシーツを掻きむしる。 見れば股間が膨らんで、下穿きを苦しげに押し上げていた。 聖書は自慰を禁じている。なのにしたくてたまらない。 生き地獄のはじまり。 それからは夜毎体が火照って体が疼き、明け方まで悶え苦しむはめになる。 隣で寝ている仲間には知られたくない。告げ口されたら……考えただけで恐ろしい。 「ゾ、ラ」 夜毎夢を見た。裸のゾラが現れた。ある時は無邪気に手招きし、ある時は放埓に股を広げ、娼婦のようにダミアンを誘惑する。 『来て、ダミアン』 「嫌だ」 『貴方が欲しいの』 「来るな」 これはゾラじゃないと理性が否定する。サキュバスがゾラに化けているのだと決め付ける。 しばらく寝不足の状態が続き、日中の修行にも身が入らなくなる。 夜通し火照りと疼きに悩まされ、股間に伸びる手を辛うじて制す。 「うっ、ぐ、ぁ」 恥ずかしい。 知られたくない。 夢魔に魅入られたのか? 歯を食いしばり喘ぎを殺し、シーツを巻き込んで身悶えし、大量の汗をかいて葛藤する。 隣のベッドでは見習いが熟睡している。声や物音をたてたら気付かれる。 一体どうしたらいいんだ。 僕は破戒者なのか。 しまいには縄を咥え自分の手を縛ろうとするも上手くいかない。 「顔色悪いな。眠れてねェの?相談のるぜ」 薬草の手入れをしている最中、親密な間柄の先輩がこっそり話しかけてきた。 彼なら信頼できるかもしれない。 ダミアンは追い詰められていた。体の悩みを誰かに相談したかった。 先輩は新入りに親切だった。 監督役に見咎められたら折檻をうけるのを承知で、空腹のダミアンにパンや蜂蜜酒を分けてくれたことさえある。 だから。 「実は……」 恥を忍んで告白した。夜毎淫らな夢を見ること、火照りを持て余すこと、いけないとわかっていながら自分を慰めそうになってしまうこと。 真っ赤な顔で俯くダミアンの言葉に耳を傾け、「まかせとけ」と先輩は請け負った。 「珍しかねェよ、新入りにはよくあるんだ」 「本当に?どうすれば」 「簡単だ」 そしてまた夜が訪れた。 同室の見習いはすぐ寝息を立て始める。ほどなく扉が開き、蝋燭を持った先輩が忍んできた。片手に縄を持っている。 「コイツで手を縛っちまえば、したくてもできねえだろ」 「でも自分じゃ」 「手伝ってやるよ」 ダミアンは心から感謝した。 先輩は蝋燭皿を机に置き、ベッドに座ったダミアンの両手をロープで束ね、強く縛り上げた。 「痛ッ」 「悪い、キツすぎたか」 「ほどけると困るからこれ位で」 「ちょうどいい」と言いかけ、言えずに押し倒された。先輩がダミアンの口を塞ぎ、下穿きをずらし、猛りきった剛直を押し当ててくる。 「ん゛ん゛ッ、ん!?」 「馬鹿だなあお前。蜂蜜酒に混ぜ物にしてあんの気付かなかった?」 夕食時、必ずダミアンを呼んだのには下心があった。 隙を突いて薬を盛るのは簡単だ。 修道院で栽培している薬草には催淫効果のあるものが含まれる。 「全部お前が、ッぁ」 「抵抗しても無駄だぜ、両手を縛られてちゃあな」 「こんなこと神様がお許しになるわけ、ひっ」 陰茎を掴まれ、素股を擦り立てられる。 「体が火照ってたまらねえんだろ?素直になれよ。大丈夫、神様は寛大なお方だ。自分に仕える子羊の戯れ位、笑ってお許しになるさ」 「いやだあっちいけ、大声出すぞ!」 「やってみろ、隣のヤツが起きたら恥かくのはお前だ。ここ以外に行くあてあんのか?ねえだろ。お互い実家に勘当された身だって思い出せ」 体格と膂力ではかなわない。なお悪いことにダミアンの両手は縄で縛られている。 先輩はダミアンを後ろ向きにし、力ずくで両膝をこじ開け、排泄の用途しか知らない後孔を貫いた。 「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」 痛い。 苦しい。 凄まじい異物感と不快感。 瞼の裏で真っ赤な光が爆ぜ、抽送の都度生木が裂けるような激痛が襲い、シーツにぱたぱた血が滴る。 「うぶい顔しやがって。初日から目ェ付けてたんだ」 誰か助けて。 父上。 兄上。 ゾラ。 凌辱は一度で終わらない。以来先輩はダミアンのもとに通い詰め、夜毎体をもてあそぶようになる。 「なあ、どうやってツィゴイネル女を口説いたんだ?聞かせろよ」 「うう゛ッ、うっぐ」 好き勝手に揺さぶられ突っ伏す。 汗ばむ背にのしかかり、鈴口から先走りを滴らすダミアンの陰茎を捏ね回し、優越感に酔った先輩が嘲る。 「我慢せず喘げ。隣のヤツはよく寝てる、どうせ聞こえねえって」 何度も神様に祈った。 助けてくれと縋った。 無駄だった。 先輩の行状は日に日にエスカレートしていく。 「あッ、あッ、あぁあッ!」 僧房の天窓から注ぐ青白い月明りが、先輩に激しく突かれ絶頂する少年の痴態を暴く。 願いは叶わず祈りは報われず、ダミアンは堕ちていく。 ある時は目隠しをされた。ある時は布きれで陰茎を縛られた。ある時は股間をしゃぶらされた。 「必ず天罰が下る」 「は?みんなやってるぞ」 「嘘、だ」 「嘘なもんか」 「でたらめ、だ」 「修道士も司祭様もみんなヤッてる、あっちこっちでヤりまくってる。女人禁制の修道院で男色が流行るのは必要悪ってヤツさ、そのへんキリスト様もちゃあんとわかっておいでだ、固てえこたあ言わねえよ」 嘘だ。耳を貸すな。神様はちゃんと見てる、いずれ必ず天罰が下る、コイツを裁いてくださるはずだ! ゾラに会いたい。 抱き締めたい。 でもできない。 僕は穢れてしまった。合わす顔がない。 今宵も先輩はダミアンの房を訪ね、彼を裸に剥き、絶倫に責め立てる。 軋むベッドの上で腰を振ってる最中に気配を感じ、ふと隣を見れば同室の見習いと目が合った。 ダミアンの痴態を眺めながら、夢中で自慰に耽っている。 ここは地獄だ。 月光で引き伸ばされた影が石床に穿たれ、蠢く。自分に覆いかぶさる男に巻角としっぽが生え、異形の悪魔に変わりゆく。 絶望のどん底に叩き落とされ、現実逃避に身を委ね、それでもまだ悪夢は終わらない。 ある日の夜更け、事が済んだ先輩が帰った後。急に腹痛に襲われ、蝋燭を持って僧房を出た。腸内に射精され腹を下したのだ。 最低に惨めな気持ちで用を足して戻る最中、柱廊の奥に怪しい影が蠢いていた。 なんだろうと蝋燭を掲げ、ダミアンは見た。
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