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10年後
施設で働き始めて、ついに10年が経った。
サイロは、いつもと変わらず、老いた彼らの介護に明け暮れていた。
グリル爺さんは、相変わらず元気いっぱいだ。あまりにも逞しいものだから、初めて定期健康診断の付き添いに行ったときは、書類の生年月日を見て仰天した。
反対にルーシェさんの方は、ずいぶんと落ち着いてきた。最近は自分だけの植物園を造園することに夢中らしく、よく植物に詳しいスタッフと話し込んでいる。
そんな折だった。悪魔がやって来たのは。
その夜も、サイロは日課の床掃除をするため、モップとバケツを担いで廊下を歩いていた。
「おやおや、よく働いてますねぇ」
目の前に、突然悪魔が現れた。一瞬辺りを黒い煙が包み、サイロは顔を覆いながら激しくむせた。
「ああ、もうそんな時期か」
そう独りごちると、悪魔は嬉しそうに笑った。
「ずいぶんと、善人になるために熱心なようで。良いことです」
そう言うと、悪魔は懐から一枚の紙を取り出した。
それは、白紙の契約書だった。10年前にも見せられた、何も書かれていないまっさらな契約書。
「なんだよ。何も変わってねえじゃねえか」
少し拍子抜けしながら、サイロは眉をひそめ、つぶやく。
10年間「善人」をやっていれば、契約ができる。そういう話ではなかったのか。
不審に思って悪魔に目をやると、悪魔は口元を釣り上げて、にぃと笑った。
「はてさて、サイロ殿。あなた今、本当に、悪魔と契約をして願いを叶えたいと思っていますか?」
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