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「狙って3位獲りに行ったんだよ、あいつ。本気出せば1位獲れるような実力なのに」
「……そうなのか、あいつが?」
「確実に3位でゴールできるように微調整しながら走らせていた。競っている相手しか見抜けないような絶妙な加減で」
にわかには信じがたい話だった。
ヘンリーは懐から取り出した煙草に再び火を点ける。
「マシンの整備にやたらと時間を割いていたし、思い返せば彼はいつもレース場に誰よりも早く来て、誰よりも遅くまで練習をして帰っていた」
「そんだけ最善を尽くした結果が、偶々3位だったってだけだろ。見た目通りの半端な野郎だな」
「……どうだかな」
タバコの吸い口を噛みながら、ヘンリーは眉間に深い皺を寄せた。
「ねぇ、最高の車に乗せてくれるって本当なの?」
背後で声がして振り返ると、金髪の豊満な身体つきの女と、黒髪のスレンダーな女が俺の肩にしなだれかかってきた。
「おい、なんだよ。レティシアの奴、言い振らしちまったのか」
美女たちの肩を抱きながら、俺は得意げに言った。
「何人でも相手してやるぜ。で、レティシアはどこだ?」
目の前でヘンリーが、見るからに不快そうな顔でこちらを見てる。
俺の首に媚びるように細い腕を巻き付けながら金髪の女が言った。
「レティシアは来ないわよ」
「はっ、何言ってんだ。俺は彼女を誘ったんだぞ」
「だって、ほら」
女がくいっと顎先でカウンターの方を示すので、視線を移す。
私服に着替えたレティシアは、カウンター席にいるあの3位君の傍に立っていた。
3位君がカウンターの上に置いた、あの妙なロボットをぽんぽんと軽い調子で叩く。
まるで気心の知れた相棒の肩を叩くようなそんな仕草だった。
「えっ、どうして⁈ なんで持ってるの?」
「今回のレースで、3位入賞の景品だったんだ」
「やばい、めっちゃ嬉しいんだけど」
彼女は両手を合わせパチパチと小さく拍手をすると、にっこり笑った。
3位君が微笑み返しながら言う。
「前にこの店でコマーシャル見ながら、欲しいなぁって言ってたでしょ」
「覚えててくれたの?」
「僕もこのロボット、かわいいなって思ってたから……」
くしゃくしゃの赤毛を掻いて照れ臭そうにする3位君の頬に、レティシアが掠めるような愛らしいキスをする。
「本当にありがとう、ジョン」
両隣にいる極上の美女たちが霞むほどの衝撃だった。
完全にやられた……。
カウンターの上に置かれていた妙なロボットが、またあのウルウルの瞳でこちらを見てくる。
液晶画面に浮かぶその顔が、パチパチとあざとく瞬きを繰り返した。
『お友達からメッセージを預かっているよ!』
興味を惹かれたカウンター席に集う連中が、ロボットを囲んで耳を傾ける。
もしやと思い慌てて踏み出したが、時すでに遅し。
『ーーこの俺が正々堂々戦うわけねぇだろ、馬鹿どもが』
END.
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