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さっきから外の景色を眺めているけど、今のボクの目には何も映らない。
目の前が真っ暗な気がした。
今のボクの心のなかみたいだ。
ただ、胸が、喉がなんだか苦しい。
この込み上げてくるものはいったい、なんなんだろう。
そのうちまぶたが熱くなって、目の前が霞んできて。
目にたまったものがツゥっとほほをつたう。
そんな涙に恒ちゃんが気づかない訳がない。
ハンドルを持ちながら、正面を向いているけど、ボクが鼻を啜る音に、その目が反応して、顔は前を向いたまま、視線を助手席の方に向けた。
「あれ?どうしちゃったのかなあ。
なんか涙が出てきた…。
止まらないや。」
笑って誤魔化すボクに、恒ちゃんがそっとそばにあったテイッシュボックスからテイッシュを何枚か取り、そっと渡した。
「ほれ、我慢すんな。
今までそうやって散々我慢してたんだろ?」
そんな優しい言葉に、ボクの涙腺は一気に崩壊した。
ビービー音を鳴らして鼻をかむ。
「もー、恒ちゃんのせいだからねっ。我慢してたのに。ボクを泣かせてさ。」
「でも、ずっと泣きたかったんだろ?」
「…」
「やっぱり気になって仕方ないや…。
このモヤモヤ、なんだろ。
この気持ちがなんなのかわからない。
何で涙が出るんだろ…。」
別に何も聞かれてもいないのにそう言った。
だけど恒ちゃんはボクがなんのことを言ってるのか分かってる。
黙って話に耳を傾けている。
「伝えてみれば?
大河にその素直な気持ち。」
「え?」
「素直にそのまんま。今の気持ち。」
恒ちゃんはそう言って暫く黙ってから、再び。
「気になるんだろ?
そうやって。いつも、あいつのことさ。」
「べつに、ああいう態度がいつも気にくわないだけだよ。」
「大河は俺たちのこの友情を人一倍大事にしてんだ。
だからさ、寂しいんだ。
大河はずっと誠也を大事にしてきたからな。
誠也に彼女が出来たからまた誠也が自分から離れていくみたいで寂しいんだ。寂しがってる大河のことが碧斗は気になって仕方ないんだろ?」
信号が赤になる。交差点には一台も車なんかいない。
エンジンの音だけが交叉点に響いている。
エンジン音が響く車内で。
静けさの中、暫く沈黙のあと…。
「そんな寂しそうな大河をみてらんないんだろ?
おまえはさ。」
そういって初めて恒ちゃんはこっちを見た。鼻をかんでたボクもティッシュを鼻にあてながら目だけ恒介の方を見た。
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