告白

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告白

「俺、床で寝るんだよね」  深夜のファミレスで向かい合うケンジが、急に切り出した。 「それって、ベッドじゃなくて床に布団敷いて寝るって事?」 「いや、布団じゃなくて、床に寝るの」  どういう事?ユキエのパスタを巻く手が止まる。 「あー、引っ越しの準備で荷造りしちゃったから、一時的にって事ね。でもさ――」 「違う違う。ベッドとか布団だとさ、こう、体勢が決まらないっていうか、落ち着かないっていうか、いつまで経っても寝付けないんだよね」 「床だと寝付けるの?」 「そう!」  何を言ってるんだろうか。 「でもさ、二人で寝る時、いつもベッドじゃん?」 「いや、ユキエが寝てから、俺、床に移動してるもん」  何だって?でも、そういえば、いつも自分より先にケンジが起きている。ユキエは一度寝たら朝まで起きないので、その異常事態に気付いていないだけなのか。 「でも、さすがにそれって……」 「あ、もちろん掛布団はかけるよ。冬は寒いし」 「いや、そういう問題じゃなくって!」 「あ、枕は使わないわ」  枕を使ってたらOKという話ではない。 「ねぇ……それって新しい健康法?それとも宗教か何か?」 「いやいや、ただただ寝やすいからだって。ビシッとフォームが決まるっていうかさ!」  頭が痛くなってきた。ユキエはすっかりフォークを置いてケンジを見据えている。 「せめてソファとかじゃダメなの?」 「あー、ダメダメ。柔らかすぎる」  話にならないよといった感じで顔を振る。 「私……イヤだよ、同棲相手が床に寝てるなんて」 「ちょちょ、何?どうした?」 「絶対に体に悪いって!」 「いやグッスリ眠れるんだから、悪くないよ!キャンプだって、ほぼ地べたに寝てるようなもんじゃん?あれと一緒だよ」 「家だから!キャンプとは違う!!」  何で怒鳴られてるか解からない、という表情でケンジが固まっている。    そうか、変人なのだ。  これはほんの氷山の一角に過ぎない。きっともっと想像を絶するような奇妙な生活習慣を抱えているに違いない。 「別れよう」 「は?」 「私、床で寝る人とは一緒に暮らせない。アナタ変人よ」  言い終わるや否や、ユキエは席を立ってしまった。  カランカランという扉のベルの音が聞こえる。本当に出て行ったんだ。  ケンジはすっかり冷めてしまったグラタンを口に運びながら、窓に視線を向ける。  車道の脇に、Y字バランスで立つユキエの姿が見えた。 「変人て。足でタクシー止める女に言われたくないよなぁ」
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