【弐】wat je nu kunt doen

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軟膏を塗り終えた後は顔面を覆うように、しかし火傷の部位に直接触れることがないように慎重に包帯を巻いていく。 ヘイゼルから貰った包帯は四つほど。その半分を使ってしまったが、想像していたより火傷の範囲は狭かった。 (今出来るのはこれくらいだな……) 残り二つとなってしまった包帯を見据えながら、考え込む。 ここに補給物資が届くのは後どのくらいか。 その中にカーティスに使える治療用具があるのか。他の負傷兵もいるなかで、俺の自分勝手な判断で行動するわけにもいかない。 軍人としての判断は、負傷兵は優劣つけず治療すべきだろう。 そう思ってはいても、部隊の衛生兵としての感情が邪魔をしてしまう。カーティスに"絶対に助ける"と伝えた言葉を嘘にしたくない。部隊の唯一の生き残りを、俺の仲間を、絶対に死なせたくない。 板挟み状態の思考が顔に出ていたのだろうか。 いつの間にか側に来ていたカリエラに、肩を叩かれ表情を指摘される。 「怖い顔をしているね、ラハード一等陸尉」 「え、あ…。マックラーナ上等陸尉殿。お見苦しいところを…」 「彼は、もしかして貴方の部隊の……?」 「……はい。イーグル大隊の……俺の、仲間です」 「ーっ、そうですか。シュトレン中佐の……」 俺がイーグル大隊の一件をその指揮官がシュトレン中佐だと伝えた時も、カリエラは酷く痛ましげな表情をしていた気がする。それも一瞬のことで、問うのも野暮だと思いなにも言わなかったが。 今この場で、わざわざ俺の側まで来たのは理由があってのことだろう。 "イーグル大隊"という呼称を使わず"シュトレン中佐の"と名指しして言葉を返したのには、恐らくシュトレン中佐に対し、カリエラは思うところがあったから。それで俺の側に来たのだろうと想像する。 声を震わせながら、それでも決して態度には出さずシュトレン中佐を偲ぶカリエラ。 シュトレン中佐と何回も話し合うほどには親交があったのだろう。カリエラの態度を見るに、戦友とは違った距離感の間柄だったのかもしれない。 深く詮索しないほうがいいだろう。 俺は話題を変えるために、今一番知りたい情報を問うてみることにした。 「マックラーナ上等陸尉。この地区に補給物資が届くまでどれほどかかるのでしょうか」 「早くて一ヶ月、遅くて三ヶ月ほどです。次の補給物資がこの地区に届くのは二週間後になりますね」 二週間。 俺の手元にある包帯は明日一日分しかなく、到底足りるものではない。軟膏だけならば間に合いそうにも思えるが、それだけでは酷くなる一方だ。他の天幕に治療用具の予備があればいいのだが、ただでさえ貴重な予備を一人のために渡してくれるとは思えなかった。 唇を噛みしめ眉間に皺を寄せる俺の表情を見て、カリエラは言葉を続ける。 「私はこの後本国へ定時報告及び補給物資の輸送手配のためにここから離れます。負傷兵の治療はガイ二等陸尉に任せてありますので、ラハード一等陸尉は」 「俺もマックラーナ上等陸尉と共に向かいます」 渡りに船。 まさかこのタイミングで定時報告の瞬間に立ち会えるとは思っていなかった。勢い余って不躾にも、カリエラの言葉を遮って返答してしまったことを詫びて、俺の意思を再度伝える。 何か言いたげな様子をしていたカリエラだったが、俺の意思が変わらないことを察したようだった。 後方地区通信手がいる所まで同行する事は出きるが、あくまでも俺はカリエラの付き添いという体で向かうため、本国との通信中は詳細を聞くことが出来ないうえに、側にいることも出来ない。 カリエラにそう忠告され、俺は幾分か落胆しながらも頷いた。 確かに、通信の詳細は気になるところではあった。あわよくばカーティスの事を本国に伝えることができればとも思っていたが、現実はそう甘くないようだ。 しかし、俺がカリエラに同行する事を決めた理由はそれとは別にもう一つある。 後方地区通信兵。 本国や、最前線からの通信を受け続けている通信手と知り合っておきたいと思っていたからだ。後方に位置しているとはいえ、戦場の地であるここでは情報は第一に通信兵へ伝えられる。 その最新の情報を逐一知っておきたい。 戦場での些細な情報を早い段階で知っておけば、非常時に慌てることなく動くことができるからだ。 「彼は、目を離していても大丈夫なのですね?」 カリエラの視線の先には気を失ったカーティスの姿。 苦しげな表情、魘されて何度も名前を呼ぶ姿を見て俺に問いかけてきたのだろう。 不安はあるが、今出来ることはもう十分にやった。俺が側にいたところで事態が好転するわけでもないし、カーティスの意識がすぐに回復するようにも思えない。 「大丈夫です」 「分かりました。では、ついてきてください」 先に歩きだしたカリエラの背を追いかけるようにして、俺は天幕内から出ていく。
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