【弐】wat je nu kunt doen

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負傷兵治療のため天幕が張られた西区の他に、弾薬、食料等の補給のための中央区。 そして動ける兵士が集まる東区と大まかに決められ、どの場所から歩いても十分もかからない場所に通信兵のいる作戦指令エリアがあった。 他区より作戦指令エリアにいる兵士の数は少ないが、入り組んだ道が続いており何回曲がったのか、最早覚えていない。 そんな迷路じみた場所を迷いも見せず進んでいくカリエラの背を見失いかけては、早足で追いかけ後に続いていく。 歩きながら確認した事といえば指令エリアは少数精鋭で動いているようで、いくつかの天幕に三~四人ほどの兵士がおり、その誰もが大尉から中佐階級の兵士たちばかりだ。 司令部から通達されここに来たわけだが、俺が思っている以上に重要拠点とも言えそうな雰囲気だった。 「ここです」 そうこうしているうちに、目的の場所までたどり着いたようだ。 見た限りでは他の天幕とそう大差ない作りをしているが、カリエラ曰くここが後方地区で唯一ブラウ王国に通じる通信施設なのだという。 つまり、この場所が戦場の一切を知れる情報の最前線。 天幕の中へ入る前にカリエラは己の身分を告げる。 少し時間をおき中から出てきた兵士に敵兵ではないこと、危険物を携帯してないかを重点的に確認され、許可が降りたところで、今度は俺に視線を向けられた。 「……ソイツは?」 「彼はシモン・ラハード一等陸尉。私の付き添いで来てもらっております」 「付き添いねぇ……」 顎に手をおいて訝しげに眺めてくる。 兵士の胸元に光る大尉階級の記章を目にした俺は、カリエラに紹介され素早く敬礼したまま黙り込む。 特に紹介を求められていない上に、上官から怪しまれるかのように、爪先から頭まで凝視されては話す言葉すら思い浮かばない。 「悪いが、知らん相手は中には入れられねぇぞ」 「はい。ですので、中に入るのは私だけです。彼には天幕の外で待機させて貰っても宜しいですか」 「天幕のすぐ側は駄目だ。離れた位置で待機させろ」 そう言い大尉は腕を組み、仁王立ちで一歩も動かない。 どうやら俺が天幕から離れた位置に行くまで、その場から動くことはないようだ。カリエラは「そんな話は聞いていない」と問うが、大尉は一貫して同じ言葉を繰り返す。 仕方なくカリエラと目を見合わた俺は小さく頷いた後、大尉と目線を合わせてもう一度敬礼してから天幕から離れていく。 大尉とカリエラの姿が小さくなり、見えなくなった所で立ち止まり、これからどうするか、と思案する。中に入れない事は予想していたが、天幕から距離を取られてしまうことまでは想像すらしていなかった。 ここに来た道のりすら曖昧なのだ。 下手に動き回ってしまえば道に迷ってしまう可能性は十分にある。 そうでなくとも新参者の俺が歩き回って、回りからいらぬ疑いをかけられるのはもっと不味い。最悪の場合俺とカリエラの立場すらも危ぶまれるかもしれない。 この地区の通信兵と顔見知りなら、こんな苦労はしなくていいのだが…。 「……冷静になれてねぇな、俺」 少し焦っているのかもしれない。 たった一つの情報がいかに重要視されるか、石ころのような些細な情報でも、命運すら左右させる重大情報となりうるのが戦場での鉄則だ。 前線での経験から行動してしまったが、ここは前線ではない。 いかに冷静でいようとしても、感情を圧し殺した気でいても、心に巣くった焦操感や緊張感はぬぐえない。体は休息を感じているのに、精神だけを戦場に置き忘れたかのような感覚に目眩がしそうだった。 「シュトレン中佐……俺は、どうすれば良かったんですかね……」 亡き相手に問いかけるも、答えなど返ってくるはずがない。
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