【弐】wat je nu kunt doen

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天幕までの道程の間、相手と俺の間に会話は一切なく重苦しい雰囲気のまま歩みを進めていた。 険しい表情はあの一瞬だけで、元の表情に戻り他の天幕の兵士と挨拶を交わす様子を横目で見ながら、俺はため息をつきたくなる。 無意識に唇を指でなぞり、羞恥と怒りで体が震えそうになってしまう。 ーキスされた。 単なる唇同士の接触なんてものじゃない。 口内を蹂躙され、尊厳すらも破壊されかけ、挙げ句に薬を盛られた。 俺の口の中に広がったあの感覚は、自白剤に近いものだと思われる。 投与された相手の感情を高ぶらせ、内に秘められた本音を暴く。 使ったことはなかったが、部隊の衛生兵として従軍するにあたって捕虜から情報を聞き出す際、使用することがあるかもしれなかったから。 投与するのは他の兵士だが、薬剤などを保管するのは衛生兵だったため、俺もその薬剤を知っている。実際に味わったことはないが、唾液と共に飲み込み、次に現れた症状から判断することができた。 無言で歩き続ける中、頭では情報を整理して、ようやく納得できる結論まで持ってこれた。 「君…えぇっと、シモン・ラハードだったっけ。カリエラ・マックラーナ上等陸尉が入ったのはこの天幕で合っているかな?」 考え込んでいて気付かなかったが、いつの間にか天幕の前まで来ていた。 案内を一切していないのにも関わらず、一発で辿り着いてしまう相手は一体何者なのか。そう問うのを後回しにし、首を縦に振って同意を示す。 すると相手は険しい顔をし、無言で中に入っていってしまった。 呼び止めようとする前に入ってしまい狼狽えるが、流石に続けて中に入るわけにもいかず天幕の前で待つこと数分ーー 「シモン、君が見たのはこの兵士?」 わざわざ天幕の前まで連れてきた兵士は、俺とカリエラが出会った大尉。 殴られたのか、頬に真新しい青アザが残る姿に目を見開いてしまう。数秒遅れて、頷いて返すと相手は盛大に溜め息をついて項垂れる。 「……仕事熱心なのは感心するけどさ、僕は何も聞いてないけど?」 「はっ!申し訳御座いません!!」 萎縮し顔面蒼白になってしまった大尉の様子に、完全に状況に置いてかれてしまった俺は目を白黒とさせるしかない。 何も言えずにいる俺を見かねたのか、簡潔に説明してくれる。 「本来なら付き添いでも、あそこまで離れた位置に待機する必要はないんだよ」 なるほど。 だからあの時カリエラも納得していない表情をしていたのか。 「それで、何で君はシモン…彼のことを僕に知らせなかった?彼はイーグル大隊の生き残りだ。ここに預かる以上、付いたら報告しろと伝えていた筈だ」 顔色を青くし冷や汗をかく大尉の様子を見ながら、相手は再度問いかける。 言葉尻を震わせながら大尉が語ったことは、俺のことはさっき知った、これから連絡しようと思っていた。と言うことらしい。 俺が後方地区に辿り着いたのは今日の明け方の事だ。 着いてすぐ身分を問われ、身体検査を行われた後に、自分の怪我の治療を行っていた。気がつけば寝てしまい、起きてすぐカリエラのいる天幕へ治療の手伝いを申し出たのだ。 大尉が今の今まで俺の存在を知らなかったのも無理ないのではないか。 「あの…マックラーナ上等陸尉は」 凍りつく空気に耐えきれず口を挟む。 途端に二人から視線が飛んでくるが、ずっと天幕から出てこないカリエラが気がかりだった俺に相手は返答を返してくれる。 「ああ、彼女なら中で通信しているよ。王国への通信は僕がいないと出来ないからね、彼女を少し待たせてしまったようだ」 「貴方は、一体……」 この天幕まで迷いなく辿り着いた事と言い、伝えてもいないのに俺が"イーグル大隊所属"だったことも知っている。 そして、先程の言葉。 ー王国への通信は、僕がいないと出来ない。 「僕は、ブラウ王国直属の地方派遣第二部隊、通信総指揮を任されているエヴァンス・ユージッド。 ー君と出会った時に、王国から戻ってきたところだったんだよ」 ー俺は、とんでもない相手と知り合ってしまったのかもしれない。 ーーーーー wat je nu kunt doen 今できることを
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