【壱】kijk elkaar aan

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流石の俺も、慌てて手首を掴んで止める。 「おいッ、お前なにやってんだ!!」 「……イリアスは助からない。そうアンタが言った。なら、オレが…オレの手で直接イリアスを殺してやるべきなんだ」 「コイツはお前の友人なんだろ?なんでそう躊躇いもなく…」 「友人じゃないよ。…たった一回、オレを匿ってくれただけの相手だ」 なんの感情の色もない瞳。 俺に助けを求めてきた時は感情の少しは見せていたのに、今やもうその面影もない。 「だからって、殺す必要はないだろ」 「オレが殺さなくても、オレの国が殺すよ。この村はそういう場所なんだ」 そういう場所。 少年兵の言う言葉の意味が分からず問い返せば、曰くここは俺の国と少年兵の国の丁度国境に位置しているのだという。 戦争が始まった直後こそ、ここまで激化するとは思っておらず、政治的に不安定な位置にある村は狙われることはなかった。 だが、今やもう。 「国が殺すんならいっそ、オレが殺してあげるんだ」 少年兵は俺の腕を振りほどき、ナイフを胸部へと突き立てたーー 「ーーな、なんで」 少年兵が突き立てたナイフは、俺の左手の掌に遮られイリアスの胸部にまで届くことはなかった。 掌の血管と、痛覚を切り裂かれ鋭く響く痛みに喉の奥から悲鳴が出そうになったが、すんでのところで堪える。 「お前が殺す必要はないだろッ……殺すことで、解決させようとするな……。お前は軍人であって、殺人者じゃない」 「そんなの、どっちも一緒だろ。結局は人を殺すんだ」 「どっちも人を殺す、そりゃそうだな。だが、殺す目的と、その責を負う相手は全く違う。……まだ未来のあるお前が、わざわざ重いもんを背負う必要はねぇんだよ」 「…………」 ナイフを取り上げた俺は、左手からの出血を止めるために布で覆いキツく縛った。 納得がいかないのか、眉間に皺を寄せる少年兵。 上官からの作戦命令で人を殺すのと、自分の意思で相手を殺すのでは重さが違う。より重く苦痛が伴う後者の選択を、未来ある少年に背負わせるべきではない。 沈黙が降りた空気に、痰が絡んだ咳が響く。 その声にいち早く反応した少年兵は、イリアスの側まで近寄って顔を覗き込んでいた。 死を目前にした相手に、俺が出来ることは少ない。だからせめて、生きている相手に後悔が残らないようにしてやることしか出来ない。 下げていたバックから箱を取り出し、中に薬剤と注射器が残っていることを確認した俺はイリアスの側まで近寄った。 「……何をするんだ」 「鎮痛剤を打つんだよ。俺が今持ってる最後のやつだけどな」 「それでイリアスは助かるのか?」 「助かるわけじゃない。……少しの間、苦痛から解放してやるだけだ」 微かに警戒心を露にする少年兵に、俺は言葉を返す。 痰が絡むほどの咳だ、肋が折れ肺に刺さっているのだろう。呼吸も酷く不安定で、息を吸うのにも吐くのにも痛く苦しい思いをしている。それでも必死に呼吸を続けている理由はきっと、この少年兵が側にいるからだ。 少年兵はイリアスに対して「友人じゃない」と言っていたが、恐らくそれは嘘なのだろう。 死を目前に控えた友人に対し、必死に冷静さを取り繕おうとした結果が「一回会っただけの相手だから悲しくない」といった自己防衛から来るものだ。 悲しくないから、苦しむ姿を終わらせることにも躊躇いがない。 ー後悔するのは目に見えて分かっているのに。
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