【壱】kijk elkaar aan

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固く目を瞑りながら荒い呼吸を繰り返すイリアスの額を軽く撫でた。 腕に触れ、二の腕の関節部分を親指で押さえる。細く頼りないが血管の位置は把握出来たため、注射器の先を慎重に血管に差し入れ、残り最後の鎮痛剤を流し込む。 薬剤が無くなったところで注射器を取り外し、清潔な布で二の腕の間接を覆った。 「……これで最後だ。自分が後悔しない選択をしろよ」 「なんで、アンタは……」 なんで、と問われても返せる言葉はない。 イリアスと言う子供に面識なんてないし、この少年兵にも面識ないどころか敵国の兵士だ。それでも、目の前で苦しんでいる相手を放ってはおけなかった。 きっとこの場で何もしなかったら、後悔していただろう。 イリアスも、少年兵も。 ー俺も、きっと後悔していただろうから。 「………ぁ、……ぅ」 「イリアス…!」 小さく吐く息に音をのせようと口を開けるが、言葉にならずに閉じてしまう。 鎮痛剤が効いていたとしても、声を出すのは少し辛いだろう。必死に何度も口を開け、声が出ずに閉じ、また口を開けて、を繰り返すイリアス。 ようやく声が出た頃、ゆっくりと目を開けたイリアスが少年兵と視線を合わせ、安心したように微笑んだ。 「………ヴィ…ル………」 「なんだ、イリアス。オレはいる、ここにいるよ」 「うん、うん……ヴィル、あの、ね…僕……は、ね………君、に……会えて良かった……君は、こんな僕を助けてッ……くれた。たった一度だけ、会っただけの僕を…助けてくれた。友人だ、って…言ってくれた」 痛みが引いていても違和感が消えないのだろう。 途切れ途切れに言葉を紡ぎながら、力の入らない手をふらりと上げて、まるで何かを探すかのように彷徨わせている。その手を握りしめた少年兵は、小さく紡ぐ言葉を聞き逃さないようにイリアスの口元へ耳を寄せていた。 「ぼく、は……幸せだ……君という……友人がー親友が出来て……嬉しい。………ありが、とう……ヴィル」 言葉の最後にふわりと笑顔を見せたイリアスは、少年兵に手を握られながらゆっくりと瞳を閉じていく。 「待って、なぁ…嘘だろ、イリアス。目を閉じないでくれ、まだオレと話してくれ、なぁッ……!」 そんなイリアスに少年兵は何度も何度も、言葉をかけ続けるがもう一度目を開けることはない。 イリアスの心臓はまだ動いている。 けれど、彼の意識が戻ることは限りなくゼロに近いだろう。今回意識が戻ったことも奇跡に近いものだったのだから。 「……なぁ、イリアスッ。お前だけ、ずりぃよ……オレだって、お前のこと……」 肩を震わせてすがる少年兵を横目で見ながら、俺は言葉をかける。 「この子供の心臓は動いてる。まだ生きてるんだ、伝えたい言葉があるなら側で語り続けろ。包帯も変えて、体を綺麗にしといてやれ……そうすれば、また意識が戻るかも知れねぇ」 「意識が……戻る?」 ー後悔しないように、行動しろよ。 少年兵の手元に包帯の予備と、少しの治療用具を残して俺は立ち上がる。
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