【壱】kijk elkaar aan

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これ以上ここにいる必要も感じられない。 イリアスの今後は、この少年兵がなんとかするだろう。それに、俺と少年兵は敵同士なのだ。いくら幼い少年兵といえど、敵国の兵士と馴れ合うつもりはなかった。 そう思えど、歩きだそうとした俺の手首を力強く握られその場に留められてしまう。 「なんだよ」 不機嫌に振り返り、少年兵の顔を見据える。 「……オレ……ヴィルっていうんだ。アンタに礼を言ってなかった。ーイリアスのこと…ありがとう」 「別に……お前のためじゃねえよ」 「……ねぇ、アンタの名前、聞いてもいいか」 「………めんどくせえ奴。俺の名前聞いてどうする、お前の国で俺の情報売るのか?たいした金にならねえけどな」 捕まれた腕を払い、今度こそ足早にその場から立ち去る。 泣き叫ぶ声、死臭、断末魔。 この世の終わりを煮詰めたような惨状に見てみぬ振りをするしか出来ない。ー俺には何も出来やしない。 森の奥へと足を進めようとするが、またも誰かに腕を捕まれてしまう。振り替えれば案の定、ヴィルと名乗った少年兵。 「待って」 「…またお前か。何度も言うけど」 「この森は迷いやすいんだ、何度か行くオレでも迷う。だけど、アンタと出会ったとこまでなら分かる道だから」 言いながら、手を離したヴィルはスタスタと先へ進んでいってしまう。 恩返しのつもりか、別に思惑があるのか。 どちらにせよ、このままここにいても埒が明かない。向かった先でヴィルに殺されようが、戦場にいればいずれ同じことが起きる。 いっそ、背後からひとおもいに殺せたら楽なのだが。 「………」 衛生兵は、味方の怪我の治療のために存在しているのであって、誰かを傷付ける権利は持ち合わせていない。 それが例え敵国の兵だったとしても。 「ここまででいい」 お互い無言で歩き続け、ようやく森の先に見慣れた景色が映る。 森を出てしまえば敵同士だ。 元々ヴィルもそのつもりだったのだろう。一歩も森の外に出ず、視線も向けず、俺の挙動だけを一心に見ていたのだから。 ふと、手に持ったままだった銃をヴィルに投げて渡す。 「これ、敵に安易に渡すんじゃねえよ。俺じゃなかったら今頃背中から撃たれてたぜ」 言っておきながら、ふと気づく。 今渡したら俺も同じ状況になるんだということに。背後から狙われる恐怖は何度も味わってきているし、戦場にいる以上いつ死んでもおかしくはない。 だが、自ら敵兵に銃を返すのは殺してくださいと言っているに等しいのでは? …嗚呼、だけど。 今日ここで死ぬ運命ならば、それでも良いだろう。 「そんじゃ、今度こそじゃあな。今度会うときは敵同士……いや、戦場に立つんだ。お互い二度と会うことはねぇかも知れないけどな」 すれ違いざまにヴィルの肩に手を置いて、離れる。 森から出る手前で、ふと伝え忘れたことを思い出した俺は、立ち止まって振り返り言葉を紡ぐ。 「俺はシモン…ブラウ王国の軍人シモン・ラハード」 ーさよならだ、ヴィル。 敵に背を向け味方のもとへ戻っていく。 背後を見せたら撃たれる気持ちでいたが、森を抜けても銃を向けられた気配すら感じなかったーー。 ーーーーー kijk elkaar aan 向き合う
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