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【弐】wat je nu kunt doen
配属していた大隊が壊滅状態となり、戦える立場ではない俺は司令部からの指示で後方地区に来ていた。
前線から後退してきた負傷兵を天幕に運び入れ治療を行うこの場所は、補給基地も兼ねているために、行き交う兵士は途切れない。
誰も彼もが己の事で手一杯のようで、相手に見向きもしない。
負傷兵の治療はいくつかの場所に別けて集められ、行われているようだった。その内の一つの天幕に足を踏み入れれば、丁度負傷兵の処置を終えた他の衛生兵が俺に視線を向けた。
「貴方の怪我の程度は、部位は?痛みは感じられますか?」
「いえ、司令部からの指示でここに来ています。シュトレン中佐率いるイーグル大隊は壊滅。生存確認出来た者は前線から後退し、私にもその指示が下されました」
「そうですか、シュトレン中佐殿が……」
「………、…ここに来たのは後方地区の負傷兵の治療支援のためです。司令部からは『配属すべき部隊が整うまで、後方地区にて待機せよ』との指示ですが、待機中にここで治療支援が出来ればと」
「此方としても願ってもない申し出です。私はカリエラ・マックラーナ上等陸尉。もう一人がヘイゼル・ガイ二等陸尉。共にここで治療を行っています」
「私はシモン・ラハード一等陸尉。マックラーナ上等陸尉殿、治療支援を許可していただき、感謝しています」
お互いに敬礼を交わした後、カリエラは負傷兵の治療に戻っていく。
天幕に運び込まれる負傷兵の数が多く、この場にいる二人だけでは手が回らない。天幕はここだけじゃなく、他にも四つほどあるがこの様子だとどこも満員状態なのだろう。
見る限り、カリエラとヘイゼルは重傷者から治療を行っている様子だった。
「俺は反対側から治療していくか」
天幕に連れてこられる負傷兵のほとんどは、意識がない又は朦朧とした状態だ。
患者の意識がない状態での治療は、相手の反応が見れない上に、死と隣り合わせの治療になる。決死な救護措置を取っていても、意識が戻らないまま死を迎えてしまうことが多い。
そのため、俺以外は重傷者から治療を行っている。
見る限り、残った重傷者の数はカリエラとヘイゼルの二人でなんとか治療を行えるほどの人数だったため、俺は他の奴等から治療を始めようと決めた。
痛みに呻く負傷兵の傍らに座り込み、手早く治療を進めていく。
「グッ、ぅう…痛ェよ、いてぇ…っ!!」
「待ってろ、すぐ治療してやる。お前の怪我はそこまで酷いもんじゃねえ。治療して、安静にしてりゃ治る」
「俺の、腕ッ…うで、も治るのッ……かよ!」
負傷兵の言葉に俺はなにも言い返せない。
幸いにも止血はすんでいるようだったが、利き腕が二の腕から下をごっそり無くした状態で、治るものなどありはしない。
怪我を治すことが出来ても、無くした腕を元通りにさせる手段など奇跡か魔法でもない限り無理なものだ。
何も言えなくなる俺に、負傷兵は自嘲したように笑うが、怪我に響いたのか痛みに呻き、辛そうに息を荒げる。
「腕は無理だ。だがお前の命は助けることが出来る。……心配するな」
「…ッは、はは。そりゃ頼もしい」
ぜぇ、はぁ。と息を吐き、黙り込んでしまう。
止血するまでにかなり血を流していたのか、顔色が悪い。輸血の必要がありそうだが、そこまでの余裕はなく、今出来ることを手早くすませる。
終われば他の負傷兵の元へ。
二、三人と無心で進めていき、あらかた治療を終えたところで気付く。
天幕の一番隅、他の負傷兵の影になって見えない位置にまだ治療の終えていない兵士がいた。
爆発に巻き込まれたのか、酷い火傷を負っている。主に酷いのは顔面。容態を見るため近づいてそこでようやくその兵士が顔馴染みだということに気付く。
俺がいた部隊ーイーグル大隊第二中隊に配属し、その指揮も任されていた相手。
「カーティス…?」
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