【弐】wat je nu kunt doen

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名を呼んでみるが、未だに半信半疑だった。 顔面の半分以上が火傷に覆われており、真っ赤に爛れたその様子では顔の判別がつきづらい。それでも、名を呼ぶことが出来たのは俺たちの国ではあまり見ない特徴的な翠の髪色だったからだ。 名を呼び、肩に触れてみるが返事はなく、荒い呼吸のみが聞こえてくる。 「なんでコイツだけこんな…ッ!」 火傷の具合を見るに、Ⅱ度、もしくはⅢ度までいっている。 治療用具を持ち出しながら、今出来うる限りの処置を行っていく。が、ここでは最低限の治療しか出来ない。水を用意することは出来ても、氷水などなく、細菌から逃れられる術もない。 本国に戻れば適切な治療を施すことが出きるのに、負傷兵を運ばせるための技術が"この地"にはない。 敵国との国境沿いから数百キロほど離れているこの地でも、わざわざ自国の技術をさらけだすような真似を俺達の国ーブラウ王国三代目国王ルーヴェン・オルシュタルナーは看過しなかった。 (本国に戻れればコイツや他の奴等も助かる。それなのに、貴重な人材を捨て置いてまでブラウ王国の技術を守り続けたいってか…!くそっ) これ以上放置して細菌が入るのを防ぐために、残り少なくなっていた抗菌作用のある軟膏を塗りはじめたところで、固く閉じていた瞼が震える。 うっすらと開いていく瞼に、軟膏を塗る手が止まってしまいそうになった。 「カーティス…」 吐息のように呟いた言葉が聞こえたのか、緩慢な動作で瞳を此方に向けてくる。光を捉えることが出来ているようで瞳孔が小さく収縮し、俺を見据える翠の瞳は夢半ばのようにぼんやりと揺らいでいた。 「し……も、ん……」 「…ッあぁ、ああ!俺だ、シモンだ」 俺の配属していた部隊の奴等は皆、死んだと思っていた。 後退していく兵士達の中に、俺の見知った顔が見えなかったから。唯一俺が戦場で治療した兵士も、後退していく途中で力尽きた。 悲しむ瞬間すら与えられず、仲間の安否を確認する手段すら考えられず、ただ前線から逃げ出すことしか出来なかったけれど。 ここに仲間がいた。 俺と同期に入隊し、イーグル大隊に配属されてからも第一中隊の指揮を任されるほど実力のあるカーティス・マグナイールが、生きていた。 あの場で仲間を助けられなかった無力感と後悔が一気に溢れだす。 「カーティス…、すまな…「グッ……!う、う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あっ…!!あ、あ゛あ゛っ」ーーーッ!!」 謝罪を口にしようとしたが、突然取り乱したカーティスに遮られてしまう。 何かに怯えるように体を震わせながら、火傷に塗っていた軟膏を振り落とし、挙動不審に左右を警戒している。 (シェルショックか…!!) ーシェルショック。 前線に出ていた際の緊張とトラウマが一気にカーティスに襲いかかり、恐慌状態に陥っているのだ。
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