【弐】wat je nu kunt doen

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手当たり次第物を投げつけ、時に俺に向かって首をしめようと狙ってきたり、何かを探すように身を屈め、言葉にもならない声で叫ぶのを止めない。 落ち着かせようと声をかけたが、俺の言葉すら聞こえていないのか、錯乱し暴れ続けてしまう。 幸か不幸か、今のカーティスに寝転がる負傷兵の姿は見えてはいないようで、器用にも負傷兵の合間をぬって距離をつめてくる。 流石、中隊の指揮を任されていただけのことはあった。 「あ゛あ゛あああ!!うわああアああアア!!」 感心してる場合じゃなく、どうにかしてカーティスを落ち着かせなければいけない。この場合どう対処したらいいのか分からないのが本音だった。 暴れ続けるカーティスから距離を取りながら、俺は衛生兵として出来うることを瞬時に思案する。 カーティスは、ここにくる前は部隊と共に前線で戦っていた。 顔面を覆う手酷い火傷が出来たのと、意識を失った時は、恐らく同じタイミングだ。 だとするならば、カーティスが意識を取り戻した直後に、いきなり暴れ始めたのはここがまだ"戦場"だと誤認しているからだろう。 俺に対して首をしめようと迫ってきたのも、それ故だ。 ここが戦場ではなく、俺が敵ではないと、同時に伝えられればカーティスは冷静さを取り戻すのではないか、と考えを巡らせる。 一か、八か。 距離を取っていた足を止め、暴れるカーティスの元へと自ら歩み寄ってく。 胸の位置で両腕を上げて、何も持っていない掌を見せ、ゆっくりと時間をかけ歩み寄っていく。そんな俺の行動に動揺したのか、カーティスは手当たり次第に物を投げ、距離が縮まっていくごとに叫び声が大きくなっていく。 逆効果な気がして一瞬怯みそうになるが、これ以外にカーティスを落ち着かせる方法が思い浮かばなかった。 「…カーティス、俺だ。シモンだ。覚えてるだろ、お前と一緒に入隊して、お前と一緒に大隊に選ばれた、シモン・ラハードだ。俺は、敵じゃない。なぁ、カーティス」 「アああ゛あ゛ぁああアアアっ!!嫌だ、イヤダイヤダイヤダ、まだ死ねない、まだ死にたくねぇッ頼む、頼むから」 カーティスの叫んだ言葉に、胸が切り刻まれそうになる。 俺は、部隊の奴等の最後を知らない。 イーグル大隊の衛生兵に選ばれて、そこから先、戦場での記憶がまるでない。穴が開いたように記憶が欠如していてるのだ。 思い出せる一番最新の戦場の記憶は、敵国の兵士を殺したあの時から。 だから、部隊の奴等がどのような最後を遂げていったのか記憶にない。 カーティスの叫びは、部隊の奴等全員が味わってきた叫びなのだろう。戦場で味わった恐怖と苦痛が叫ぶ言葉から鮮明に伝わってくる。 何故、俺は記憶を無くしているんだ。 カーティスがこれほどになるまでの惨状を俺も見ていた筈。後悔と自己嫌悪が一気に俺に襲いかかってきて、血が滲むほど唇を強く噛み締める。 熱い、目が熱くて仕方ない。 「しんだ、皆ッ、死にたくねぇ死にたく、ッ…!!…うわぁあ゛ああ゛あ、あ!!!」 「ーーッ!」 カーティスが振りかぶった拳が俺の頬にあたる。 鈍く重い一撃に視界がぶれて、よろけそうになるのを寸前で堪えた俺は、隙が出来たカーティスの体を抱きしめた。
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