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鬼灯の夢
幼い頃に、鬼灯の実の中身を綺麗に吸い出して、そこにふーっと息を詰めて、小さくてまるこい毬を沢山作った。
橙色でつるんとしていて、弾け飛びそうなほどに艶々てかてかとしているそれを、もいだ栓を丁寧に剥がして細かな穴を空け、ちゅうちゅうとやる。
皺の寄っていく様子は侘しくて、上手く行くと得意な気持ちになった。
その代わり、口内にはなんとも言えない苦味が広がって、青臭さにはしばらく耐えねばならない。
「…似てる」
「え?」
「なんでもない。はい、おしまい。服を着て」
「イチャイチャしないの?」
「しないわ」
「変わってんね。自分はいいんだ?」
「質問ばかり。嫌われるわよ」
「あんたのことが知りたいから、きくんだ」
カナカナと鳴いているらしいあのヒグラシは、もうすぐ死ぬのだろう。
1週間ほど前からこの一匹の悲しげな叫びだけが、この部屋には夕刻あたりに響くのだ。
こいつも、蝉だったなら良かったのに。
時が経てば、こんなにくだらないことも言い出すとわかっていたなら、隠れ家に呼び寄せたりしなかった。
あたしは後悔をしたけれど、その落胆の衝撃より、胸が貫かれたように痛んだことの方に悲しくなる。
だって、その痛みこそ、こいつのバカみたいでありきたりな、つまらない言葉に喜びを感じたと言う証拠だからだ。
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