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鬼灯の夢
夏の終わり頃、家庭をほっぽって、田舎の山の中にやって来たのは1週間前のことだ。
祖父母が亡くなるまで住んでいた、だだっ広い日本家屋はまだ傷んではおらず、手入れをすれば永住することも出来そうだった。
ここは圏外。
途中で、祐介にだけ行先をラインで送った。
無視されると思っていたのに、高校最後の夏休みを有意義に過ごすべきである甥っ子のは、何故かあたしの元へやって来た。
「姉に殺されるわ」
「あんた、もうここで死ぬ気だったろ」
「そんなわけないでしょう」
「旦那は女のとこ、姑さんの介護をやり通して葬式を終えて。何にもなくなった、って思ったんだろ」
「違うわ。あたしは、これから好きなことをして生きよう、って…」
「行方不明になるわけ?好きに生きようとしてる人間が。構って、ってことじゃん」
顔にカッと血が集まって、肩が露になってしまっていた浴衣の下前に手をやると、ぎゅうっと上前と合わせて布地を握りしめる。
…鬼灯色の雲の真ん中に、血のように赤い夕陽が開け放っていた障子の白を染めて行く。
きっとあたしも、こんな色をしているのだろう。
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