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鬼灯の夢
あんなに可愛らしかったはずの祐介は、いつの間にかこ憎たらしい鬼子に成長していて、ちっとも癒してなんかくれやしない。
高校生だったあたしは、祐介のオムツも取り替えてあげたし、子守唄だって歌ってやった。
「なによ、祐介まで、優しくないわね」
「…千咲」
「…なによ」
「俺、千咲おばさん、…千咲のこと好きだった」
「知ってるわ。だから呼んだの。とんでもないことしちゃった」
「ここで暮らそう、一緒に」
「あ、…ん、ん、」
手首をつかまれて、畳の上に組み敷かれると、祐介が額にかいていた汗がパタパタとあたしの頬におちて滑り、耳の中にたまって首筋がゾクリとした。
重ねられた唇の隙間からさしこまれた舌は、やたらと甘ったるく感じる。
蝉だったなら。
あたしも。
明日には、地に落ちてしまう命でしかなくて。
今だけを精一杯に生きて。
祐介の若さ故の勘違いに、付き合えたなら。
その嘘で飾った欲望に、溺れられたなら。
抗うような思考を無視して、あたしたちの行為は忙しなく、どうしようもなくピッタリとはじまる。
あんまり気持ちが良くて、毒に酔うようだった。
そして、蝉の鳴き声が途絶えた頃に、秘密を守るように物静かに終わるのだ。
「…千咲、好きだよ」
「…うん」
「困らないの」
「…あたし、嬉しいのね」
「ね、山に行かない?」
「夜よ?朝になってからにして。危ないわ」
「待ちきれない。山に行きたい」
「子供っぽいとこ、ちゃんとあるのね」
祐介は今度こそ自分の服をしっかりと着て整えると、来た時と同じように縁側からおりて、裸足にサンダルを引っかける。
振り返りもせず、あたしに背を向け、隣の林へと姿を消した。
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