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鬼灯の夢
いくらなんでもひどい言葉だとわかっていたし、お姉ちゃんだって少なからずそう思っているに違いないからだ。
ここへ向かう途中、急カーブを曲がりきれず、車ごと崖から落ちてしまった。
私たちだけが、ドアが開いて外に放り出されて、助かった。
鍵がしまっていたはずだ。
大事な孫を乗せているのだから、と、チャイルドロックまでかけていた。
でも、後ろの席のドアは開いて、私とお姉ちゃん、お姉ちゃんが抱いていた祐介は崖上の車道に転がり落ちた。
みんな死ぬはずだった?
それとも、事故なんて起こらないはずだった。
父と母と私たちの運命を、ねじ曲げたのは誰だろう。
…山の中腹から、私と祐介を抱いたお姉ちゃんは、半日かけて歩いてここへやって来た。
何故、誰も哀しんだり、泣きわめいたりしないのだろうか。
未だに、死体が見つかっていないからだろうか。
話題にものぼらないのは、おかしなことではないのか。
祖父母は、自分の息子とそのお嫁さんが行方不明だと言うのに、騒ぎもしない。
お姉ちゃんは、とり憑かれたように赤ん坊のことにしか関心がないようだった。
曾孫の誕生はめでたいことだから、落ち込まないように気を張っているだけなのかもしれない。
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