17人が本棚に入れています
本棚に追加
鬼灯の夢
ー きっと、祐介が選んだんだ。
必要な人間だけを、生かしたんじゃないの。
それとも、こんなことすら「よくあること」だから、平気なの?
私は、お父さんとお母さんの話をしてはいけないのだ。
祐介が、聞いている。
山の神様が、聞いている。
ここは、そう言うところ。
ー 祐介は、不吉な子どもなのだろうか?
山の神様、まだ私を騙しているの?
祐介は、産まれて来てしまったよ。
私は、あんな大人になるの?
「可愛い、祐介。千咲も、抱いてあげて」
「…うん」
不愛想に返事をすると、怖々と両腕を差し出す。
あたたかくて、やわらかくて、頼りない赤ん坊の肉体と、体温に、思わず顔が綻ぶ。
『好きだよ』
ビクリと身体が強張る。
空耳だとわかっていても気味が悪かった。
もういい、と言って、祐介をお姉ちゃんに返すと、私は夜の闇の中、祖父母の家から漏れる灯りに淡く照らされている縁側へ行く。
靴を履くと、薄暗い、星だけが美しく瞬く空の下で、食べ尽くした鬼灯の花壇へと走る。
ー もっと、食べなくちゃ。
そう、最後に鬼灯の毬を作ったのは、こうしてお姉ちゃんの出産祝いをする為に、祖父母の家に家族で集まる日のことだった。
最初のコメントを投稿しよう!