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そうやってかつみの愛を受け止めていると、光とともにシャッター音が水を差した。
「あ、安西くん……。安西くんも、来てたんだね……」
「かつみ、知り合い?」
「はい、安西くんはクラスメートです、狩野さん」
かつみの目が泳いでいた。こんなに怯えるかつみの姿を初めて見た。
「安西くん、今日はその……、バ先の先輩と駅まで歩いてたの」
しどろもどろにかつみが答える。どういうことだ。
「あ、そうだったんだ。てっきり彼氏さんか何かだと思ってた」
まさか、かつみは二股かけているんじゃないか。そう考えると合点がいった。
「てっきりじゃなくてそうですよ。君は彼女のなんなんですか」
だがもし仮にそうだったとして、俺はかつみを諦めたくない。
「初めまして。佐古さんとの関係はただのクラスメートですよ。ついでにちょっとパパラッチごっこもさっき始めました」
開いた動画を見せられた。ちゅぱちゅぱと、卑猥な音まで録音されてた。
「佐古さん、この人ホントにただの先輩?」
高校ではもちろん不純異性交遊は禁止だ。俺はかつみの処罰を危惧した。
「そうよ」
「じゃ、警察行こうか。この人、強制わいせつ罪だよ」
俺は背筋が凍りついた。
「ちょっと待って、晶はあたしの彼氏よ! あたしたち、付き合ってるんだから!」
かつみが俺の胸もとに寄り、そのままぎゅっと抱きついた。
「学校に無許可のバイトも不純異性交遊も停学モノの校則違反なんだけどね。彼氏さん何歳? ウソついても警察行ったらすぐバレるからね」
「21よ。バ先じゃ頼りになるんだから」
言葉自体は嬉しいが、いまこの場ではやめてくれ。それではおまえが罰される。
「青少年育成条例って知ってる? 本人たちだけじゃなくて親も認めないと恋愛関係が成立しないんだよね」
そうだ、俺が悪いんだ。俺がかつみに、悪さしたんだ。
「なにが言いたいのよ?」
「だからさ。親からしたら、娘がただわいせつされてただけの話なら娘の校則違反はバイトだけになって減刑されるの。法律の話ともなると、公然わいせつ罪から無罪になるの。親御さん、恋愛関係を認めると思う?」
かつみはぐっと唇を噛みしめた。こいつが俺に全てを擦りつける性格だとは思えなかった。
それにしても、かつみが怯えていたわけだ。安西だったか? この男は陰湿過ぎる。
「随分と好き放題言ってくれるけど、いい加減にしてくれないかな?」
なぁ安西、俺に殴り倒されるか俺を暴行するかを選べ。かつみに火の粉はかぶせない。俺とおまえの共倒れだ。
「晶! やめて! 安西はクラスの190センチ越えの柔道部員をタイマンでシメたことがあるの!」
俺はかつみに引き止められた。俺を捨てておまえは逃げろ。おまえみたいないい女なら、他に男が見つかるさ。
「……晶、ここはガマンだよ。安心して。あたし、何があっても晶を嫌いにはならないから。そのかわり、退学や勘当になったらあたしと一生一緒に居てよね」
俺なんかのために人生を捨てるな。
「安西! こっちは腹くくって付き合ってんのよ! 通報でもなんでもしたらいいじゃないの!」
人生は長い。冷静になれ、かつみ。
「なかなかいいタンカ切ってくれるけどな、勘違いするなよ。俺は恋愛成就のキューピッドだ。
俺の言うことを聞きさえすれば、悪いようにはしないさ」
安西は俺に視線を戻した。
「彼氏さん、佐古さんここまで惚れ込んでるみたいだけど、どうする? 道連れにして不幸になる? それとも、大人しく俺の言うことを聞く?」
この男は、何を考えているかわからない。だが少なくとも、何も考えていないわけが無い。
「どうすればいい?」
「みんなで多目的トイレ行こうか。大丈夫、俺は大したことはしないよ」
露骨な場所を指定する。だがそのときは、どんな手段を用いようが俺がかつみを護ってみせる。
「晶、ごめん。でも嫌いにならないで。こいつ、下手に抵抗なんかしたら何するかわからないから」
かつみが決意を固めた顔でこちらを見てきた。
「クッソ……。悪趣味なゲス野郎が」
「安西! ちゃっちゃと済ませるわよ! 何があっても、あたしは晶のモノなんだから!」
俺はかつみの性格を考えた。かつみは自分が我慢することで場を丸く収めるほうを選ぶだろう。だから、これは俺の問題だ。俺にとって、それは全てを失おうとも我慢ならない。
どんな屈強な男でも、隙をついて背後から首を絞められればひとたまりもないだろう。
「そうだな。それじゃ早速だけど、彼氏クンのを取り出してしゃぶってよ」
かつみが狐につままれた顔で安西を見た。
「だから、俺はキミたちのキューピッドなの。男って、女に自分のを舐めたりしゃぶったりしてもらうの好きだから。てか知ってるでしょ」
かつみの顔に、迷いが見える。俺も想定しなかった。頭をよぎると、身体が勝手に反応した。
「俺の性格、ちょっとはわかってもらえてたらよかったけどね。俺と佐古、夏期講習が始まったらまた毎日顔を合わせるんだよ。園田みたいになりたくないよね」
ソノダが誰だかわからないが、脅し文句に使えるような仕打ちを受けているのだろう。
「ほら、彼氏クンが待ってるよ。てか彼氏クン下全部脱いじゃってよ、護られてばっかじゃん」
これはかつみの身を案じたからだ、話を穏便に済ませるためだと俺が俺を説得した。欲望を正当化するもうひとりの俺が俺の自己嫌悪感を煽りに煽った。
「その小動物の威嚇みたいな健気な部分を口使って気持ちよくさせてあげるんだよ。カメラのことは気にしてていいから」
安西は佐古の背をぽんぽんと押し、俺のまえで跪かせた。大きさは、自分でも気にしてるんだよ。
「……。晶、ゴメンね」
かつみはぎこちなく先端に口をつけた。恐怖、羞恥、そして屈辱、そんな感情が動きを固くしているのだろう。申し訳なくなりながら、身体のなかで期待と興奮が渦巻いた。
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