だます、だます。

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だます、だます。

「こ、これ……都市伝説の、“呪われた旧校舎”ってやつじゃ……!」  私は唖然として、目の前の建物を見上げた。  藍色の空をバックに立つ、ボロボロの木造校舎。令和どころか、平成の時代でさえ滅んでいたかもしれないレベルの建物である。アーチも柱も腐りかけているし、窓ガラスはあちこち割れている。まさに、古のお化け屋敷といった言葉が正しいだろう。 「やべぇ、本当に来ちゃった。あの噂ってマジだったんだぁ……!」  JR東京線には噂があった。東埼玉駅に向かう電車に乗り、そこで居眠りをすると呪われた旧校舎に辿り着いてしまうことがあると。そこから生還するためには、手順を守って進むしかないらしい。一つでも間違えると恐ろしい地獄に行ってしまい、二度と戻れなくなるとかなんとか。  そしてこの手の都市伝説の不思議なところ。なんとネットは使えるのである。メールや電話といったものは通じないので、警察に助けを求めることはできないのだが。  まあ、深く考えても仕方あるまい。ようはご都合主義と言うやつなのだから。 ――どういう手順で帰ればいいのかは、ネットで調べてみればいいよね!だって実際に行って帰ってきたつー人がたくさんいる怪異だし!  気温はわりと快適。ほんの少し涼しいかも、というくらいだ。怪異さんはお客様に親切らしい。  私はインターネットで、“呪われた旧校舎 帰り道 東京線”で検索をかけた。すると、今話題の怪異であるからか、情報が出るわ出るわ。逆にヒット件数が多すぎてドン退いてしまったほどである。おかげさまで、これではどれが正しい情報かさっぱりわからない。そのまま五分ほどここに待機してろという声もあれば、間髪入れずに中に入るべきという声もあるのだ。 「そーだ!」  私が思いついたのは、Twitterで助けを求めることである。友達のメイミはもうフォロワーが千人を超えているのに、私は八十二人しかいない。圧倒的に負けていて悔しいと思っていたのだ。だが、この怪異に体験している様子を実況中継すれば、一気にバズる可能性もあるのではないか。なんなら、万単位のフォロワー獲得も夢ではないような気がする。 ――ふふふふ、あのマウント女をギャフンと言わせるチャーンス!  なんせ花の女子高校生。承認欲求は切っても切り離せない存在だと言っていい。  私は早速書き込んでみることにしたのだった。
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