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パパあのね、と、布団のなかで息子に相談された。
五歳になる息子のお風呂から寝かしつけは僕の仕事だ。絵本を一つ読んでやって、約束通り横になってから言い出した。
「けっこんしたら、おとなになってもずっといっしょにいられるんでしょ?」
「そうだね」
「ぼくねえ、けっこんしたいひとがいるんだあ」
そうきたか。
一人っ子だからかのんびりとして妻にべったりの息子にも、そういう時期が来たらしい。喜ぶべきか、まだ早いと嘆くべきか。
「でもねえ、あのねえ、」
何か言いにくそうにしている。
「どうしたの?」
「けっこん、できないの」
「できないの?」
小さな口をきゅうっと結んで、五歳なりの深刻さで頷く。
「ほうりつで、けっこんできるひとと、できないひと、きまってるんでしょ? ぼくがけっこんしたいひと、けっこん、できないの」
「それは……」
幼稚園に送るとき、息子の顔を見ると一目散に駆けてくる男の子のことを思い出した。たつやくん、という名前で、息子も顔を見ると嬉しそうに手を繋いだり、ハグしたりしている。妻によるとまだ覚えたばかりのたどたどしい字で手紙の交換もしているらしい。
「でもけっこんしたいの。どうしたらいい?」
「うーん」
困った。しかし息子は幼いなりにちゃんと真剣なのだから、こちらもちゃんと答えてやるべきだろう。
「法律で結婚できなくても、色々な方法があるから。結婚できる年になってまだその人とずっと一緒にいたいなら、パパとママと一緒に方法を考えようね」
息子はわかったようなわからないような顔で、うん、と頷いた。
さて寝ようかとすると、枕に丸い頭を預けた息子が、難しい顔で言った。
「そのころにはママ、パパとわかれてるかなあ」
なんてことだ。
「こいつー」
吹き出しながら息子をくすぐって二人で笑い転げていると、息子の想い人に「ふざけてないでそろそろ寝なさい」、と、叱られてしまった。
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